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第55話

「しばらく、会えない……?」 『うん、そうなんだよ。ちょっとゴタゴタしててね』  巧さんから電話が掛かってくるのは初めてで、俺はうきうきしながら取った。  なんだろう、どうしたのかな、声が聞きたいとか?! そんな、巧さん! 俺もです! なんて浮ついた気持ちが、パチンと弾けた。 「ゴタゴタって……大丈夫なんですか?」  俺は頭の中でヤダヤダと大暴れしているが、努めて冷静に返事をした。  ここでヤダヤダ言ったらめんどくさいなと思われかねない。そんなのツラい。 『うん、全然大丈夫! うろちょろ嗅ぎ回ってくるから、もういい加減鬱陶しいし片付けようかな〜って感じ?』 「か、片付け……」  それって人間を……? ツッコミどころが多すぎる返事だ。 『そう。また落ち着いたら連絡するね』 「はい、待ってます。巧さん、お気をつけて」 『ありがとう、葵くんも気をつけて。じゃあまたね』  ツーツーと、電話が切れる音がする。  巧さんとしばらく会えないのかぁ。やだな、寂しいな。しばらくってどれくらいなんだろう。  でもこのペースで会っていたらすぐ残りの借金分も返し終わってしまうからちょうど良いのかも……うん、そう思わないと悲しくなる。  借金返済が終わってからも俺から会いたいと言うのは、巧さんからしたらコイツお金貰おうとしてる? と思われかねない。  だからなるべく早く借りたお金を返したい。  それに、モタモタしてる間に別の人に取られたらたまらないし……!  ていうかそもそも確認してなかったけど、巧さんって恋人いないよね?!  俺に結構時間を使ってくれるから、居ないもんだと思い込んでいたけれど、居たらどうしよう……!  むしろ既婚者だったら……いや、それはないな。  だってノンケを開発するのが趣味な処女厨って店長言ってたもん。そんな人が女の人と結婚とか、男の人と養子縁組していたらパートナーから刺されかねない。俺だったらそこまでして、性癖だから〜と言って自分以外の人と関係を持ってたら嫉妬で気が狂う。  はぁ、寂しいな。  この間会ってから三日しか経っていないのにもう会いたい。  はやく巧さんの言うゴタゴタとやらが落ち着きますように。

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