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第58話 ※桐藤巧視点

 イライラする。  それもこれも全部、あの能無しカス野郎、松平(まつだいら)のせいだと思うと余計に腹が立ってくる。  さっさとカタをつけて、可愛い可愛い葵くんに癒されたい。  普段は付き合いでしか吸わない煙草に火を点ける。灰皿にはもう、吸い殻を捨てる隙間なんかなかった。  俺は八神(やがみ)組の構成員で、組長(オヤジ)のお気に入り。金を稼ぐ能力に長けていて、若輩者ながら若頭補佐と将来有望。  前から、同じ若頭補佐の松平に対抗心を燃やされていた。  おおかた、松平が下っ端でこき使われていた歳なのにさっさと幹部になった俺が気に入らないんだろう。  毎月の上納金をひぃひぃ言いながら払っているような松平と俺では話にならないことに、さっさと気付いて欲しい。  俺に難癖をつける暇があるなら、金策に走れ馬鹿が……と罵りたくなるけれど我慢我慢。多少の理不尽も飲み込まなきゃいけない。  だからある程度は我慢する。してた。  この間の会合の時、松平がやけに上機嫌で気持ちが悪く会合が終わってすぐ車に乗り込もうとしたが、松平にニヤニヤしながら呼び止められる。 「お〜い、兄弟。そんな急いで帰るこたねぇだろ?」 「ああ、松平さん。急いでるもので」 「おーおー、相変わらずオメェは礼儀がなってねぇな。もう一回教えてやろうか? あ?」  その言葉で、松平の舎弟達がニヤニヤと笑う。箸が転んでもおかしい年頃なのか、コイツ等は。 「相変わらずオメェは趣味が悪いなぁ」 「何の話です?」  はぁ、最悪、気付かれた。俺も浮かれていたかもしれないけど、その前にうろちょろするコイツが悪い。殺したい。 「なんだあのぼやっとしたホストは! 相当肩入れしてるみてぇだなぁ。あんなのにも突っ込めるとかオメェほんと尊敬するぜ」 「いやー、松平さん、俺も結構イケるかもっス」 「そりゃテメェがホモだからじゃねーか?」  ゲラゲラと下品に笑う松平と舎弟をこの場で撃ちたくなる。葵くんを汚い目で見るんじゃねーよ。  だが、ここで葵くんを特別扱いしていることが伝われば葵くんの身が危なくなるので、しらを切った。 「何を言ってるんですか? 彼はうちの商品ですよ」 「オメェのところのホストはケツまで仕込んでんのか? おい、今度行ってみたらどうだ? コイツが仕込んだケツで接客してくれるってよ」  下品。不愉快。死ね。 「機会があれば是非と言いたい所ですが、あそこのホストは風俗ではないので突っ込みたかったからソープもあるのでそちらをどうぞ」 「だーれがオメェの店なんか利用するかよ! フンっ、まあせいぜい大事なモンは手の内で囲っとくんだな?」 「ご忠告痛み入ります」  安い脅し文句。ステレオタイプもいい加減にしろ。  松平が去っていくのを見送ってから俺は車に乗り込み、運転席に座る勘太(かんた)に声を掛けた。 「勘太、急いで一人用意して。葵くんの護衛に付けるから」 「オレでも良いんスか?」 「いや、お前はダメ。顔がバレてる」 「ええ?! 何回かアニキの送り迎えしただけっスよ?」 「いや、たぶん勘太のこと認識してる」 「はぁ〜、ホストってのは、人の顔覚えるのも得意なんスね。とりあえず急いで事務所向かいます」 「そうして。二時前までに店付近で待機して欲しい」 「了解っス」  携帯を弄り、内緒で付けたGPSで葵くんの居場所を確認する。  ……良かった。お店にいる。  メッセージアプリを立ち上げ、店長の小鳥遊(たかなし)に営業時間内に連絡を入れるようにメッセージを送る。ついでに葵くんを早退させないようにとも。  俺ちょっと浮かれすぎてかも。  でも、見た目が俺のドストライク。超可愛い。性格も空気が読めるし、ちゃんと自分を持っている。度胸はあるのに、ちょっと抜けてる所もあってそこがまた可愛い。セックスする時はエロすぎるし、すぐ気持ち良くなっちゃうし。毎回ソレに煽られて、気絶寸前まで抱くのを辞めたいのに、葵くんとセックスしていると夢中になってしまって毎回忘れてしまう。そんなこと今まで無かったのに。  とにかく会う度に葵くんにハマっていく。それをアイツにも勘付かれていたと思うと、久々に自己嫌悪した。

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