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第59話 ※桐藤巧視点

「なに桐藤〜? 何か用? 店来るの?」 「違う。今周りに人は居ないか?」 「うん、いないよ〜。事務所に籠った」 「なら良い」  すぐに店長の小鳥遊(たかなし)から連絡があった。今日あった事を伝えると、電話越しでもアイツが怒っているのが伝わってくる。 「はぁ〜?! お前マジふざけんな、上手くやれよ!」 「だからそれは俺も反省してる。しばらく葵くんには接触しない」 「当たり前だろ! その松平ってやつ何とかしろよ」 「お前に言われなくてもするよ」 「ならいいけど」 「とりあえず今日から一人葵くんにつけるから。お前も何かあったらよろしく」 「はいはい。もう二度と面倒な事に巻き込むなよ」  小鳥遊との電話を切る。後で葵くんにも連絡しないと。  ……思い返すとムカついてきた。何であんな奴のために俺が我慢を強いられてんだ。あんな雑魚に興味ないし。  あ〜、葵くんに会いたい。俺の癒し……。 「アニキ、珍しく凹んでますね」 「そうだよ。葵くんみたいに良い子なんて、滅多にいない。それなのにアイツのせいで行動制限されているかと思うと腹が立ってくる」 「も〜アニキ、ベタ惚れじゃないスか」 「葵くんもついにこの間大好きって言ってくれたよ」 「それはアニキがお金払ってるからでしょーが! ホス狂とかキャバ嬢にハマる人と同じこと言ってるっス」 「勘太、随分生意気な口を聞くようになったね?」  すみません、と謝る勘太の言葉を無視して、車の後部座席に沈む。  そんなのわかっているから、敢えて葵くんの本心は探らないようにした。 たとえリップサービスでも、葵くんに大好きと求められるのはなんとも言えない高揚感に包まれる。  まさかこの年になって、こんなにハマる子が出来るとは思わなかった。  きっとこのままのらりくらりとちょっと可愛い子達をつまみ食いして生きていくとばかり……。  中途半端に大切な人を作ると、それが弱点になり、後々面倒になる。  それでも、葵くんを手に入れたいと思ってしまう自分に驚いた。

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