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第67話

 繁華街の外れにある喫茶店で俺は今、泣きそうになった華恋ちゃんから、封筒を差し出されていた。  華恋ちゃんからのメッセージに動揺しつつ「どうして?」と返信したら、「謝りたい、お金の用意が出来た」との返信があった。  俺はどうしたら良いのかわからなくなってしまった。本当に? 嘘じゃない? なんで今まで連絡つかなかったの? 打っては消して、結局送ったのはいいよ、今から会える? というメッセージだけだった。  働いている店からそう遠くない場所ににある、落ち着いた雰囲気の喫茶店。昼間でも照明が絞られているので、迷わずここを選んだ。  お店に入ると、既に店内にいた華恋ちゃんは、奥の人目につきづらい場所に真っ青な顔をして座っていた。 「お待たせ」 「ごめんね、急に呼び出して」 「いいよ」  注文を取りに来た店員さんにコーヒーを頼むと、席に沈黙が落ちる。  視線を忙しなく動かす華恋ちゃんに、俺から声を掛けることはなかった。 「お待たせいたしました」  俺の前にコーヒーが置かれると、意を決したように華恋ちゃんが口を開く。 「……本当にごめんなさい」  消え入りそうなほどか細い声に、罪悪感な生まれない訳でもない。タワーを頼んだのは俺だから。 「これ……」  ほとんど泣いているんじゃないかってぐらい、顔を歪めて差し出されたのは、厚みのある封筒だった。 「中、確認するね」  中を確認すると、帯封が巻かれた束が二つ、あとは数枚の万札が入っていた。  きっと208万円、しっかりあるんだろう。 「本当にごめんなさい……」  とうとう泣き出してしまった華恋ちゃんに、思わずハンカチを差し出す。  華恋ちゃんのことを許す許さないかなんて、俺自身にもわからない。  今でこそ恨む気持ちはほとんどない、と思う。だからこそ会おうと思った。  でもそうやって思えるのは、巧さんがお金を立て替えてくれているから。俺が風俗で働いていないから。巧さんが俺にとって良い人で、優しい人で、好きな人だから。  きっと毎日風俗で働いて、おっさんのチンコをしゃぶってセックスするような日々を送っていたら華恋ちゃんのことを許さないと思う。俺って、だいぶ現金な性格をしてるな……。  自分の嫌なところを無理やり暴かれて、心の中をぐちゃぐちゃにかき回されたみたいで、気持ちが悪い。 「お金、途中で間に合わないってわかってた。だけど連絡する勇気がなくて……」  震える声でポツポツ喋る華恋ちゃんを、ただただ冷静に見ていた。 「……今日は来てくれてありがとう。本当にごめんなさい。そろそろ行くね」  言葉を探している俺を見かねた華恋ちゃんが伝票を持って立ち上がる。 「うん、お元気で」 「蒼くんも。ありがとう、今まで楽しかったよ」  目を真っ赤にさせて、ぽろぽろ涙を零す華恋ちゃんを見て、さらに言葉に詰まる。  怒っているのか、悲しいのか、安堵しているのか、自分でも分からない。  一人になったテーブルで息を吐き出すと、思いの外大きな声になって口から出てきた。  釈然としないまま飲んだコーヒーは、苦かった。

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