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第69話
このままだといつまでもお店にいてぐるぐる考え込んでしまいそうで、少し早いけれど出勤することにした。
「蒼くんおはよ〜今日早いね」
「おはようございます、店長。すみません、早く着いちゃって」
「いいよいいよ〜」
いつも通りのほほんと挨拶をしてくれた店長を見て、少し落ち着きを取り戻す。
とりあえず、今日も仕事頑張らないと……!!
バッグに入っている大金が怖くて、ロッカーの鍵がちゃんと掛かっているか何度も確認した。
いざ営業が始まると、今日はお店が忙しくて考える暇もなくて逆に助かった。
酔っ払ってへとへとの身体がベッドに沈む。
このお金、どうしよう。
あと、巧さんへの借金いくらだっけ。それが終わる時でもいいかな。
巧さんのことが好きで、あんなに意気込んでいたのに、それでもしかしたら関係がおわってしまうと思うと尻込んでしまう。一歩踏み出して拒否されるのが怖い。
封筒は、クローゼットの奥にしまった。
次の日も、なんとなく憂鬱な気分のまま出勤した。
相変わらず、巧さんからは連絡がない。
営業が終わって、後輩にご飯を誘われたけれど気分じゃないから断って夜の街を歩いていると、黒のワゴン車が俺の少し前でゆっくりと止まった。
扉から出てきたのは、厳ついヤクザみたいな男で、思わず見てしまう。巧さんが中に乗ってたりする? いや、違うか。この人見たことないし。
無意識のうちにじっと見ていたみたいで、その男と目が合うと笑いかけられた。え? 知り合いだった? だれ?
「キミ、千賀 葵くん?」
「えっ……?」
いきなりフルネームで呼ばれるから、警戒して後ろに下がりその男と距離を取る。
「あぁ、ゴメンなぁ。急に俺みたいなのから話しかけられたら怪しいよなぁ」
「は、はぁ」
「俺、桐藤さんからキミのこと呼んでって言われてて」
巧さんが? でもそんな連絡来ていなかった。
「ちょっと桐藤さん、ヤバイ状態だから。はやく車に乗って。詳しいことは車で話すから」
「え?! そうなんですか?」
ヤバイ状態ってどういうこと? 連絡も出来ないくらいの大怪我してるとか?!
「うん。一刻も争う状態。ほら、乗った乗った」
「わ、わかりました」
車に乗ると運転手の人も見たことがない人だった。それだけ緊急事態なのかな。
後ろから男が乗ってきて、扉が閉まりきるといきなり腹を殴られる。
「ッ?! ってぇ、はっ?!」
「バカだなぁ、お前。ノコノコついて来ちゃってさぁ〜」
ガンッ。頭に強い衝撃が走る。
男がガムテープで口を塞ぎ、手と足を縛る。
「嘘に決まってんだろ。バカなイロを持つと桐藤も大変だなぁ?」
……あれ、もしかして、俺がヤバイ状態だったりする?!
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