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第70話

 目隠しもされたので、どこに向かっているか分からない。  動かない手足と見えない視界の中で、恐怖を感じながらも降ろせと暴れてみたけれど駄目だった。  冷たい金属が首元にピタリと当てられて「死にてぇのか?」と脅されたら黙るしかない。  そういえばさっき桐藤とか言ってたな……もしかしてこの人たちが巧さんのまわりをうろちょろしている人たちってこと……? え、俺ヤバくない……? 「オラ、着いたぞ。降りろ」  長い間、車に乗っていたように感じる。  目隠しを取られた。外を確認すると、倉庫みたいな所に車は止まっている。  ていうか手足を縛られた状態でどうやって降りれば良いんだよ! これ取れよ! そんでついでに帰せ!  口も塞がれているのでもごもごと抗議をすると、俺の姿を見て「チッ……、めんどくせーな」とブツブツ言いながら荷物を抱えるみたいにして移動させられる。  投げ捨てるみたいに床に転がされた。いった! 頭打ったんだけど。  冷たいコンクリートにじわじわと体温を奪われる。    ……うん、まだ大丈夫。怖くない、怖くない。  隙を見てどうにか逃げ出そうと、自分を奮い立たせる。いざという時に、恐怖で動けなくなったら笑えない。まだ大丈夫。  いつもより煩く鳴る心臓に気付かないフリをした。  影がさす。上を見上げるとスキンヘッドの強面のおっさんがこちらを見ていた。 「オメェが千賀葵か」  いや、喋れないし。ガムテープ取れよ!  もがもがと抗議するが、聞いたわりに大した興味はないみたいですぐに俺を連れてきた男の方へ向き直る。 「フン、こんなガキに熱をあげるなんて、流石桐藤だな。気持ち悪ィ」 「そうっスか? ナマで見ても意外と綺麗なツラしてますけど」 「だからそれはテメェもホモだからだよ。こんなの抱ける気がしねェ」 「ヒヒ、こんな顔して意外と床上手かもしれないっスよ?」 「あん? そうだな、試してみたらどうだ?」 「マジすか」  ニヤニヤと笑う男たちにドン引きする。おい、嘘でしょ。嘘だと言ってくれ……!!  スキンヘッドのおっさんの靴の先で、顎を上げられるておっさんと目が合った。 「ほら、嬉しくて泣いてるじゃねーか。期待に応えないとな?」  泣いてないし嬉しくない。頭を振るが、それが気に食わなかったらしいスキンヘッドの男に蹴りをお見舞いさせられる。 「……っ!!」  頭が揺さぶられるような衝撃がくる。  コイツ等まじでヤバイ……! 何とかしてここから逃げないと……!  ぐらぐら揺れる頭では、なんにもいい案が浮かばなかった。

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