72 / 92
第72話
男の手が自身に触れると、気持ち悪くて吐きそうになる。
やめろ。触るな! 手足は動かないし、身を捩って逃げようとしても相手の笑いを誘うだけだった。
「なんだ、もう感じてんのか? ド淫乱じゃねぇか」
「さすが桐藤。本人もイロも下品だなぁ」
ゲラゲラ笑う男たちの言葉に、頭がカッと熱くなる。
俺のことはどうでも良いけど、巧さんのことは言うのはダメだ。ムカついてしょうがない。お前らの方がよっぽど下品だよ。巧さんは下品じゃない……。
「やっぱ声がねぇと楽しくねぇなぁ」
男の手が口元に貼ってあるガムテープまで伸びて、そのままビリビリと剥がされる。ガムテープの粘着部分に皮膚が全部持っていかれそうになった。
「いった……!」
「ヒヒ、どれだけ大きい声出しても大丈夫だぜ葵チャン?」
「気持ちわる……」
思わず出た言葉に、腹を立てた男の拳が飛んでくる。
さっきから何だコイツ! ゴリラかよ!! めちゃくちゃ痛いけれど、性的に触られるよりサンドバッグにされる方がマシだ。
巧さん以外に触られたくない。そういう目で見られたくない。
「生意気だぞお前。大人しく媚び売れよ。普段桐藤に売ってるみたいにさぁ。そしたら酷いことはしねぇから」
男がそう言うと、倉庫の扉がギギギ……と音を立てて開いた。逆光でよく見えないけれど、人が立っているのがなんとなくわかる。
「オイ、お前鍵は閉めたのか?!」
「いや、見当たらなくて閉めてないっスけど……」
「アホか! 下にチェーンと一緒に置いてあっただろうがッ!!」
男たちが焦ったように会話をするのを見て、今来た人が仲間でないことがわかる。
もしかして……、目を細めて必死にその人の姿を確認する
「巧さん……?」
「葵くん、遅くなってごめん。俺が良いって言うまで目閉じてね?」
その声はやっぱり巧さんの声で。安心して、我慢していた涙がこぼれ落ちそうになった。
ともだちにシェアしよう!