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第72話

 男の手が自身に触れると、気持ち悪くて吐きそうになる。  やめろ。触るな! 手足は動かないし、身を捩って逃げようとしても相手の笑いを誘うだけだった。 「なんだ、もう感じてんのか? ド淫乱じゃねぇか」 「さすが桐藤。本人もイロも下品だなぁ」  ゲラゲラ笑う男たちの言葉に、頭がカッと熱くなる。  俺のことはどうでも良いけど、巧さんのことは言うのはダメだ。ムカついてしょうがない。お前らの方がよっぽど下品だよ。巧さんは下品じゃない……。 「やっぱ声がねぇと楽しくねぇなぁ」  男の手が口元に貼ってあるガムテープまで伸びて、そのままビリビリと剥がされる。ガムテープの粘着部分に皮膚が全部持っていかれそうになった。 「いった……!」 「ヒヒ、どれだけ大きい声出しても大丈夫だぜ葵チャン?」 「気持ちわる……」  思わず出た言葉に、腹を立てた男の拳が飛んでくる。 さっきから何だコイツ! ゴリラかよ!! めちゃくちゃ痛いけれど、性的に触られるよりサンドバッグにされる方がマシだ。  巧さん以外に触られたくない。そういう目で見られたくない。 「生意気だぞお前。大人しく媚び売れよ。普段桐藤に売ってるみたいにさぁ。そしたら酷いことはしねぇから」  男がそう言うと、倉庫の扉がギギギ……と音を立てて開いた。逆光でよく見えないけれど、人が立っているのがなんとなくわかる。 「オイ、お前鍵は閉めたのか?!」 「いや、見当たらなくて閉めてないっスけど……」 「アホか! 下にチェーンと一緒に置いてあっただろうがッ!!」  男たちが焦ったように会話をするのを見て、今来た人が仲間でないことがわかる。  もしかして……、目を細めて必死にその人の姿を確認する 「巧さん……?」 「葵くん、遅くなってごめん。俺が良いって言うまで目閉じてね?」  その声はやっぱり巧さんの声で。安心して、我慢していた涙がこぼれ落ちそうになった。

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