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第73話

 巧さんの言う通り目を閉じると、どん、どん、と破裂したような大きな音が聞こえた。  え……? 今のって……?  先程まで威勢の良かった男たちは、うめき声を発している。 「葵くん、おいで」  人の気配がし、身体が宙に浮いた。荷物を運ぶように、俵担ぎにされる。  ふわりと香る巧さんの匂いで、身体から力が抜けそうになった。  ……怖かった、巧さんが来てくれて良かった。  張り詰めていた糸が切れそうになる。手足は縛られたままだから、しがみつくことも出来ないのがもどかしい。  微かに震える俺の身体を、巧さんがしっかりと支えてくれた。 「桐藤、くっ……、こんなことしてタダで済むと思ってんのかァ?!」 「そっくりそのままお返ししますよ。カタギに手を出したこと、あと、美人局だけじゃなく薬も松平さん自ら売ってたみたいですね。組長は怒っていましたよ? 俺もびっくりしています、八神(やがみ)組は薬を取り扱わないはずでは?」  人の気配が増えて、オイ、やめろ、殺すぞと物騒な言葉が聞こえる。  ゆっくりと地面に下ろされると「目、開けて良いよ」と声がかかる。 「怖い思いさせてごめんね、葵くん。今、ガムテープ取るね」  ずっと会いたかった巧さんがすぐそばにいた。  手足をぐるぐる巻きにしていたガムテープをナイフで切ったあとに優しく剥がしてくれる。俺が痛がらないように慎重に。  手の拘束が解けると、巧さんにぎゅっと抱きついた。 「俺、ナイフ持ってるから危ないよ」 「巧さん……」  巧さんは俺を傷つけないってわかっているから、構わずもっと力を込めて抱きついた。  自然と涙がこぼれ落ちる。  会いたかった。怖かった。暖かい巧さんの体温に、ひどく安心した。 「ごめんね、怖い思いさせて……顔も怪我してる。痛いよね」  巧さんに力強く抱き締められる。安心してくると、たしかに顔が痛いし、口の中が切れているみたいで、鉄の味がした。  

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