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第74話
「アニキ、コイツらどうしますか?」
突然、巧さん以外の声が聞こえてくる。
巧さん以外にも人が居たことを、すっかり忘れていた。
急に恥ずかしくなって、巧さんに抱きついていた腕をぱっと離すと、その分だけ巧さんに強く抱き締められた。
「松平たちが乗ってきた車の鍵探して、組長 のところ連れていって。俺は後で行くから。連絡はしておく」
「了解っス!」
ちら、と視線を向けるとよく巧さんの車を運転している人がそこに居た。
その男の人が、俺をここまで連れてきた男たち(松平……?)の服をあちこち探す。
よく見ると、松平たちの足元には血が滲み、コンクリートを汚していた。
その光景に息を飲む。
簡単に人を誘拐して強姦しようとする松平たちも、人間をすんなり撃つことが出来る巧さんも、住む世界が違うんだ、と改めて思う。
……だけど、巧さんのことは、怖いなんて全く思えなかった。
むしろ俺をすぐ助けに来てくれたことで、余計巧さんへの気持ちが大きくなる。
うわぁ……、やっぱ俺、めちゃくちゃ巧さんのことが好きだ。
「……アイツらのことは見なくていいよ。葵くんは先に車乗ってようね」
だっこされて、そのまま巧さんたちが乗ってきた車の後部座席に下される。
「ちょっと待ってて。すぐ終わるから」
そう言って車を降りようとする巧さんのスーツの裾を、ほとんど無意識で摘んでしまう。
「葵くん? どうしたの、不安?」
「……ごめんなさい」
「謝らないでよ」
抱き締められて、頭を撫でられると、自分が駄々をこねているみたい。
でも、巧さんのぬくもりも、優しく頭を撫でられるのも手放したくない。
「怖かったね。ほんとごめんね」
ずっとこのまま、安心出来る腕の中に居たい。
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