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第75話
揺れる車体が眠気を誘い、うつらうつらしてしまう。
あの後、車の外から聞こえる「お前ら重すぎ!」の声で慌てて手を離した。
自分が誘拐されたせいで、巧さんともう一人の方は慌てて駆けつけてくれたのだ。それなのに怖かったからといって巧さんを引き止めるのはダメだよね……。
小さな声で「待ってます」というと、「すぐ戻ってくるよ」力強く抱き締められた。
色んなことがありすぎて、でも巧さんを見たら安心していつの間にか眠っていたみたいだ。
窓の外から見える景色を確認すると家の近くの、見慣れた風景でほっとする。
「おはよう葵くん」
「おはようございます、巧さん。ごめんなさい、いつの間にか寝てたみたいで……」
「大丈夫だよ。疲れちゃったね、もうすぐ家に着くから」
運転する巧さんの姿がレアすぎて、身を乗り出してしまう。
「危ないよ」
「だって、運転してる巧さんなんて中々見れないですよ」
「見ても面白くないでしょ。ほら、着いたよ」
面白いというより、カッコいいから見ていたい。だけどすぐに車は目的地まで着いてしまう。
「降りれる? 抱っこする?」
「大丈夫ですよ!」
身体の方はそんなに痛くない。どちらかといえば顔の方が遠慮なく蹴られて痛かった。
身体を縛られ、暴力を振るわれて、めちゃくちゃ怖かった。だけど、巧さんがそばに居てくれてるから、身体の震えはもう無い。
こんな形で巧さんを家の中に招くとは思わなかった。自分の家に巧さんがいるというシチュエーションは想像以上にドキドキする。
「……お茶飲みます?」
「良いよ。また組長 のとこ行かなきゃだから。葵くんが寝るの見届けてから行くよ」
「さっき車の中でうとうとしたから寝れないですよ」
「大丈夫だよ、ほらお風呂入っておいで。あ、家の鍵貸して? 施錠したら郵便受け入れとくね」
シューズボックスの上に置いてある合鍵を巧さんに渡す。返してくれなくて良いですよ、言いたかったけど、何だか恥ずかしくて言えなかった。
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