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第76話

 お風呂入ってきなよ、と巧さんに勧められるがままに風呂場に来た。  ボディソープを泡立てて念入り身体を洗う。未遂とはいえそういう目的で触られたのは、純粋に気持ち悪かった。  巧さん来てくれて、ほんと良かったな……。  自宅でお風呂に入って無防備になると、さっきまでの非日常をじわじわと実感してくる。  怖かった……ていうか巧さん銃持ってなかった……?  ……あいつら、結局どうなるんだろう。  一度考えてしまうと気が重くなる。ため息をはいて、風呂場を後にした。 「葵くんおいで。髪の毛乾かしてあげる」  出しっ放しにしていたドライヤーを片手に持った巧さんが、ちょいちょいと手招きをしてくる。  その姿が可愛く見えて、何だか気が抜けてしまいふらふらと吸い寄せられるように巧さんの目の前に座る。 「お願いします」 「よし、任せて。葵くんの髪の毛ふわふわにしてあげるよ」 「ふわふわですか?」 「うん。ふわふわ」  巧さんの口からふわふわなんて気の抜けた言葉が出てくるのが面白くて、笑ってしまう。  ドライヤーのスイッチが入ると、風の音しか聞こえなくなった。  巧さんの手が、優しく頭に触れる。あったかい風が気持ちいい。巧さんの手が優しく動くのがまるでマッサージされているみたいでまたうとうとしてしまう。  巧さんがポツリと何か言った気がしたが、ドライヤーの風の音と、眠気を必死で耐えている俺には聞き返す元気は無かった。  目が覚めると、ちゃんとベッドの上で寝ていた。  あれ、俺、あのまま寝ちゃったのかな……部屋を見渡しても巧さんはいない。  組長の所に行かなきゃいけないって言ってたししょうがないけど、寂しいな……。  玄関のドアについている郵便受けを確認すると、巧さんに渡した合鍵が入っている。結局持ってて下さいなんて言えなかった。  スマートフォンを確認すると、巧さんからの連絡は無かったけど、店長から「起きたら連絡してー」と連絡が来ていた。

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