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第78話

 準備をして外に出ると、もう既に店長はついてた。俺は慌てて車に乗り込む。 「お待たせしてすみません」  「いーよいーよ」と笑う店長とバックミラー越しに目が合うと、その目が大きく見開かれた。 「ちょ、思ったよりひどいんだけど! 大丈夫?」 「大丈夫です、見た目よりは痛くないので」 「そーなの、なら良いけど。あ、そうだ桐藤から伝言預かってたんだ」 「伝言?」  何だろう、……あんまり良いことじゃない気がする。 「桐藤から借りてたお金の残り分チャラにするって。あと迷惑料と治療費として封筒預かってるよ。まじで何があったの?」 「え……?」  頭が真っ白になり、店長が言った言葉がうまく飲み込めなかった。 「もう桐藤と会わなくていいみたいだよ。ごめんね、元はと言えばオレが桐藤紹介したから……」 「いえ、そうじゃなくて……巧さんともう会えないってことですか?!」 「うん、会わなくて済むよ。良かったじゃん」 「よ、よくないです……」  え、ほんとに? 店長が冗談言ってるとか?  俺、ほんとに巧さんともう会えないの……? 「ええ〜……、何その反応……もしかして蒼くん桐藤のこと好きとか言わないよね」 「……好きですよ。巧さんのこと」 「うげぇ、趣味わるぅ」 「ちょっと、前からずっと思ってたんですけど店長巧さんの何なんですか」  俺は巧さんに簡単に捨てられるのに、店長は巧さんにあれこれ頼まれて、店長だって頼まれたら二つ返事で動いてるし。店長は悪くないのにあたってしまう自分が醜い。でも、口は止まらなかった。 「ちょ、やめてよ痴話喧嘩にオレ巻き込まないでよ!」 「痴話喧嘩じゃありません! 俺は巧さんに捨てられたから……!」  目尻からぽろと涙が流れた。勝手に怒って癇癪起こして人にあたって泣いて、最悪だ俺……。 「もー、なんで泣くの?! てか桐藤とオレで変な妄想するのマジやめてね? 名誉毀損で訴えるよ」 「ひどい……」 「それぐらいアイツとの仲を疑われるのは我慢ならないんだって!」 「じゃあなんでそんな巧さんから頼られてるんですか。邪魔になった俺を捨てるのも店長の仕事なんですか」 「ちょちょ、ほんと蒼くん落ち着いて? とりあえず病院行ってからこの話の続きしよ? ね?」 「俺は落ち着いてます」 「もー全然落ち着いてないし!」  もう何も考えたくない。病院なんてどうでもいいから、帰って眠りたい。  涙は中々とまらなかった。

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