78 / 92
第78話
準備をして外に出ると、もう既に店長はついてた。俺は慌てて車に乗り込む。
「お待たせしてすみません」
「いーよいーよ」と笑う店長とバックミラー越しに目が合うと、その目が大きく見開かれた。
「ちょ、思ったよりひどいんだけど! 大丈夫?」
「大丈夫です、見た目よりは痛くないので」
「そーなの、なら良いけど。あ、そうだ桐藤から伝言預かってたんだ」
「伝言?」
何だろう、……あんまり良いことじゃない気がする。
「桐藤から借りてたお金の残り分チャラにするって。あと迷惑料と治療費として封筒預かってるよ。まじで何があったの?」
「え……?」
頭が真っ白になり、店長が言った言葉がうまく飲み込めなかった。
「もう桐藤と会わなくていいみたいだよ。ごめんね、元はと言えばオレが桐藤紹介したから……」
「いえ、そうじゃなくて……巧さんともう会えないってことですか?!」
「うん、会わなくて済むよ。良かったじゃん」
「よ、よくないです……」
え、ほんとに? 店長が冗談言ってるとか?
俺、ほんとに巧さんともう会えないの……?
「ええ〜……、何その反応……もしかして蒼くん桐藤のこと好きとか言わないよね」
「……好きですよ。巧さんのこと」
「うげぇ、趣味わるぅ」
「ちょっと、前からずっと思ってたんですけど店長巧さんの何なんですか」
俺は巧さんに簡単に捨てられるのに、店長は巧さんにあれこれ頼まれて、店長だって頼まれたら二つ返事で動いてるし。店長は悪くないのにあたってしまう自分が醜い。でも、口は止まらなかった。
「ちょ、やめてよ痴話喧嘩にオレ巻き込まないでよ!」
「痴話喧嘩じゃありません! 俺は巧さんに捨てられたから……!」
目尻からぽろと涙が流れた。勝手に怒って癇癪起こして人にあたって泣いて、最悪だ俺……。
「もー、なんで泣くの?! てか桐藤とオレで変な妄想するのマジやめてね? 名誉毀損で訴えるよ」
「ひどい……」
「それぐらいアイツとの仲を疑われるのは我慢ならないんだって!」
「じゃあなんでそんな巧さんから頼られてるんですか。邪魔になった俺を捨てるのも店長の仕事なんですか」
「ちょちょ、ほんと蒼くん落ち着いて? とりあえず病院行ってからこの話の続きしよ? ね?」
「俺は落ち着いてます」
「もー全然落ち着いてないし!」
もう何も考えたくない。病院なんてどうでもいいから、帰って眠りたい。
涙は中々とまらなかった。
ともだちにシェアしよう!