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第79話
診察をしてもらいレントゲンを撮るころには、昂っていた気持ちが落ち着いてくる。
わざわざ店長は車を出してくれたのに、俺、あんな責めるような言い方をして最悪だ。
俺がこんなんだから巧さんに愛想つかされたのかな、激しい自己嫌悪に襲われた。
お医者さんから、今のところ異常はないけど二、三日は安静にして様子を見てね、と言われ診察室を出る。
トラブルに巻き込まれたのかしきりに心配されたので、何も答えられなくて少し居心地が悪かった。
「あ、蒼くんどうだった?」
待合室に戻ると店長が居たので、頭を下げる。
「店長すみません、俺さっき失礼なことを……、ほんとごめんなさい」
「ちょ、待って待って目立つんだけど。オレが蒼くんDVしてるみたいだから!」
「あっ……」
「いーよいーよ、気にしてないから。全部桐藤が悪いんだよ。たぶん」
「……ほんとすみませんでした」
「もー気にしない。てかほんと大丈夫だったの?」
店長が優しく笑う。気を使われているのがわかるから、居た堪れなくなる。
「ありがとうございます……今のところは大丈夫みたいです。二、三日様子を見てねって言われました」
「そう。じゃあ今日から三日は休みね。家で安静にしてること」
「……仕事したらだめですか? 顔は化粧して何とか誤魔化します」
家にいたら余計に塞ぎ込んでしまいそうだから仕事したい。だって、いまだに状況が飲み込めてない。というか、店長から突きつけられた事実を信じたくない。
何も考えたくないし、どうしたらいいのかわからない。
だって俺、よく考えたら巧さんがどこに住んでるかも知らないんだもん。連絡先も、ブロックされてたらもう向こうからは見えない。俺は巧さんのこと、なんにも知らない。
「いやいや、ダメに決まってるでしょ! 顔もそうだけど、怪我してるときに酒飲んだら」
「そんな……」
受付から「千賀 さーん」と自分を呼ぶ声が聞こえる。
「すみません、ちょっとお金払ってきます」
「あ、コレで払ってきてね」
かなり厚みのある封筒を渡される。……最近見たな、この分厚さの封筒。
「えっ、困りますよ!」
「困ってるの看護師さんの方だと思うよ〜、ほら、受付で待ってる。はやく払ってこないと」
そう言われて背中を押される。結局支払いは自分の財布から出して、封筒は一切開けなかった。
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