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第80話
「てか蒼くん、ほんと勘違いしないでね」
「……はい」
帰りの車内で、店長が口を開く。俺はなるべく感情を押し殺して返事をした。胸が痛い。
「いやいや、誤解してるよね? ちょっと話していい?」
心底嫌そうな顔をしながら店長が言うので、きっとこの二人には何もないんだろう。
でも気になるのも事実だから迷ったけれど、「お願いします」と返事をした。
「オレと桐藤はむか〜しヤンチャしててね、八神 組のシマって知らずにヤバイことしまくってたんだよね。で、もちろんきっちりシメられてから何故か桐藤は八神組の組長に心酔してヤクザへ、オレはびびって悪いことからは手を引いて夜の世界へ……みたいな感じでそっから桐藤とほぼ関わりなかったんだけど」
「そういえば店長ナンバーワンホストだったんですよね」
店長として働いているのしか見たことないけれど、同じ店で働くナンバーワンの渚 さんが「一緒に働いてたけど、店長昔はまじでやばかった」と前言っていたのを思い出す。
「そう! で、俺が働いてた店のケツモチが八神組だったらしくてさ。その時のオーナーががみかじめ料しばらく払ってなくて、徴収しに来たのが桐藤でさ〜、いや〜びっくりしたよね」
「そんなことあるんですね……」
ヤクザになった友人が金を取り立てにくるなんてなかなかない。
「結局その店は無くなって、オレもそろそろホスト辞めようかなって思ってた時期だったから、桐藤が店出すって聞いたときオレを雇えー! みたいな感じで」
「そうだったんですね……ごめんなさい俺、失礼な態度取って……」
「だから気にしてないって〜。まあだからオレには頼みやすいし、オレもアイツからの頼みごと断るとめんどくさいから頼まれてるだけ。今回は蒼くん心配だったし。桐藤に紹介したのもオレだしさ……」
「そこは感謝してます……」
「ええー? 感謝なの? まあそう言ってくれるとちょっと心は軽くなるけどさ。……その傷、桐藤にやられたんじゃないよね?」
「それは違いますっ」
店長にこれまでの経緯を説明すると、明らかに顔がひきつっていた。
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