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第81話

「ええ〜、そんな目に遭わされてもまだ桐藤のこと好きなの? 嫌いとか怖いとかないわけ?」 「はい、ないです。ていうか、助けに来てくれましたし……」 「蒼くんって変なとこ図太いよね。色々つっこみどころありすぎるんだけど。あ、ちなみに褒めてるよコレ」 「いや、褒めてないですよね?」  疲れた顔をして言う店長。確かに怖い目にあったけど、悪いのは巧さんじゃなくて実行に移した松平とかいう男だし、そもそも巧さんは最初からマイペースで変わった人だった……それでも、好きになっちゃったんだもん。  店長に自宅まで送ってもらい、スマートフォンを確認する。……やっぱり巧さんから連絡は来ていなかった。  店長の言葉が頭の中をぐるぐる回る。  返そうとしたけれど、結局受け取ってもらえなかった封筒が重い。「オレが持ってるのバレたら解雇されちゃう〜」と言われたら、無理に返すことも出来なかった。  どうしよう……狭い部屋を何度もうろうろする。  ベッドに腰掛け、スマートフォンを握る。  巧さん、本当なのかな。冗談だよ、なんて。ほんとは捨てられてなんかない。ちょっとびっくりさせたかったんだよ、って。  もう呼んでくれないなんて、嘘ですよね?  震える手で巧さんに電話を掛けた。  呼び出し音は鳴らず、〝この電話はお客様のご希望によりお繋ぎ出来ません〟とアナウンスが流れる。  ごとっ。音を立ててスマートフォンが床に落ちた。  こんなに簡単に、なかったことにされちゃうんだ、俺。

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