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第82話

 記憶が断片的にしかない。  スマートフォンを見ると、いつの間にか二日経っていた。俺、何してたんだろ。  ああしたらよかった、こうしたらよかったっていうのは無限に湧いてくるものだから不思議だ。  それでも、巧さんに会わなければよかったなんて思わない。  はやくお金返して、好きって伝えればよかった。  その結果、もう会えなくなったとしても、まだ納得出来たかもしれない。もちろん悲しいけど。    こんな一方的な終わり方、やっぱ納得出来ないよ。  鏡の前に立つ自分は、案外元気そうな顔をしていて安心した。  顔の痣も、化粧して暗いところだったらあんまり目立たないだろう。  目も少し腫れてるからホットタオル作んなきゃ。  今日は出勤する。そのあと、巧さんに会いに行く。はい決定。どうせ連絡しても見てくれないし連絡はしない。  巧さん、俺、案外めんどくさい男なんで覚悟してください。 「店長、今いいですか」  営業終わり、店長に声を掛ける。 「いいよ〜、てかどうしたの。話があるって、やめるのはダメだよ!」 「俺もやめたくありませんよ! ……あの、巧さんの自宅教えてほしいんですけど」 「……なんで?」 「俺、やっぱり納得いきません。電話してもメッセージ送っても返事ないし、直接会って話したい」 「う〜〜ん」  ドキドキしながら店長の返事を待つ。たっぷり悩んだあと、店長は「まあいっか」呟いた。 「レジ締め終わるまで待ってね。連れてくから」 「ほんとですか! ありがとうございます! でも、あの、住所だけ教えてもらえれば自分で行きます」 「アイツの住んでるところ、オートロックだから蒼くん一人で行っても多分開けてくれないんじゃないかな」 「そうなんですね。すみません、お手数かけて」 「いいよいいよ。ちょっと待っててね」  もうほとんどのキャストが残っていないフロアで、いつもより重たいバッグをぎゅっと抱き締めた。

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