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第83話
「ここが巧さんの家……!」
高くそびえるタワーマンションの前に俺と店長は立っていた。
「はいはい、いくよー。良かったね、この時間コンシェルジュいなくて。蒼くんは隅っこで待っててね、カメラに映ったらだめだよ」
店長が部屋番を押すが、中々応答しない。
「寝てんのか? 電話してみるね」
スマートフォンを取り出して店長が電話をかける。
「おい、出るの遅いんだけど」
その一言から始まり、何度か言葉を交わすと目の前の扉が開いた。
……俺の電話はとってくれないのに。いや、いい、今からその文句をぶつけに行くんだから。
「じゃあオレはここで。めんどくさいから部屋の鍵も開けとけって言ってあるからそのまま入ってね〜」
「ほんとにありがとうございます……!」
扉の内側に急いで入る。なんか泥棒になった気分だ。でも、巧さんが俺のこと無視するからこんなコソコソしなくちゃいけないんだし……と自分を奮い立たせる。
エレベーターに乗り、巧さんの部屋がある階のボタンを押す。こんな上の階、家賃いくらなんだろ……想像もつかない。
そわそわと落ち着かない気持ちでエレベーターが止まるのを待った。
ついに巧さんの部屋の前まで来てしまった。
一度深呼吸をする。うん、大丈夫。バッグをぎゅっと抱きしめる。
心臓がいつもよりバクバクとうるさい。どうしよう、え? なんでここにいるの? みたいなゴミを見るような目で見られたら。
……それでも、このままじゃ納得出来ないから来たんだろ!
控えめなノックをしてから、玄関の扉を開けた。
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