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第85話

「……見に覚えのない封筒まであるんだけど」 「これは巧さんに借りてたお金です。返してもらったんです」  巧さんが息を呑む。  どんな反応をされるかわからないのが、こんなにも怖い。  巧さんになんにも言って欲しくなくて、口を開く。あ、この一方的なやり方、巧さんと一緒じゃん。 「これ、掛け飛んだ人が返してくれたんです。俺、借りてたお金全部巧さんに返して、対等な立場になりたかった。こんな一方的なの、俺は嫌です」  言え。ちゃんと言わないと。 「俺、ずっとどうしたらいいのか考えてました……、巧さんのことが好きです。俺と会わないなんて言わないでください」 「……っ」 「俺をすてないで、たくみさん……」  ぽろぽろと涙が溢れる。巧さんどんな表情をしてるのか怖くて前が見れない。  めんどくさい? はやく帰れ? なに本気になってるの、なんて思われていたら。 「……俺、ヤクザだけど」 「……? 知ってます」  巧さんが口を開く。質問の意図がつかめなくて、巧さんをまっすぐ見た。 「……葵くんに怖い思いさせたし」 「怖かったですよ、朝起きて隣にもいてくれないし……でも、すぐ来てくれたじゃないですか」 「怪我もさせたし」 「見てください、ほとんど治りましたよ」 「……俺、普通にヤバい男だよ? 悪いこと、いっぱいしてる」 「ヤクザが慈善事業ばっかりしてるなんて思ってません。それでも好きです」  巧さんにぎゅっと抱きしめられた。そのぬくもりが随分久しぶりに感じて、余計涙が出る。  巧さんが少し身体を離して、その涙に、くちづけをしていく。 「俺、葵くんのことGPSつけて監視してたよ。いつかヘマして捕まるかもしれない。それでも好き?」 「ああ、だからあんなにすぐ来れたんですね。なんかGPSついてる方が安心出来そう……」 「気持ち悪くないの? 暇な時ずっと見てたよ」 「……気持ち悪いというか、そんな暇あるなら俺に連絡してほしかったです……もし捕まったら手紙出します。面会も行きます。ふふ、何かドラマみたいじゃないですか?」 「そんな楽しいもんじゃないよ」 「それでもです。好きです、巧さん」  巧さんと目を合わせて言う。伝わってほしい、疑わないでほしい、そんな思いを込めて。

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