86 / 92
第86話
「……若いっていいなあ」
「? 急にどうしたんですか」
力が抜けたように笑う巧さん。
「俺、そんなに素直になれないよ」
またぎゅうと抱きしめられて巧さんの顔が見えなくなった。
よくわからないけど、これって嫌われてない、よね……? 恐る恐る巧さんを抱きしめ返した。
「じゃあ、俺が巧さんの分まで素直になります」
「葵くんが真っ直ぐすぎて、浄化されそう……」
「なに言ってるんですか、いやですよ。ね、巧さん、俺のこと好き?」
「……すき。いい歳した男が気持ち悪いよね」
「なんでそうなるんですか。俺、さっきから巧さんのこと好きって言ってますよね?!」
「営業されてるのかなって」
「確かに売上あがりましたけど、危険な目にあってまでそんな熱心に営業しませんよ」
「そう言われたらそう言われたで傷付く……」
「でも、好きですよ」
今度は自分から巧さんにくちづけをした。
「巧さんに好きって言ってもらえて、こんなにも心臓ばくばくしてます。どうしよ……、うれしい……」
最後の方、完全に涙声になっていた。
俺のこの忙しなく動いている心臓、巧さんにも聞いてほしい。
「巧さんのこと好きです。俺、そんなお人好しじゃないんで、巧さんのこと好きじゃなかったらわざわざここまで来ません」
「……うん、ありがとう」
ともだちにシェアしよう!