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第86話

「……若いっていいなあ」 「? 急にどうしたんですか」  力が抜けたように笑う巧さん。 「俺、そんなに素直になれないよ」  またぎゅうと抱きしめられて巧さんの顔が見えなくなった。  よくわからないけど、これって嫌われてない、よね……? 恐る恐る巧さんを抱きしめ返した。 「じゃあ、俺が巧さんの分まで素直になります」 「葵くんが真っ直ぐすぎて、浄化されそう……」 「なに言ってるんですか、いやですよ。ね、巧さん、俺のこと好き?」 「……すき。いい歳した男が気持ち悪いよね」 「なんでそうなるんですか。俺、さっきから巧さんのこと好きって言ってますよね?!」 「営業されてるのかなって」 「確かに売上あがりましたけど、危険な目にあってまでそんな熱心に営業しませんよ」 「そう言われたらそう言われたで傷付く……」 「でも、好きですよ」  今度は自分から巧さんにくちづけをした。 「巧さんに好きって言ってもらえて、こんなにも心臓ばくばくしてます。どうしよ……、うれしい……」  最後の方、完全に涙声になっていた。  俺のこの忙しなく動いている心臓、巧さんにも聞いてほしい。   「巧さんのこと好きです。俺、そんなお人好しじゃないんで、巧さんのこと好きじゃなかったらわざわざここまで来ません」 「……うん、ありがとう」

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