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第11話

 結局のところ、私が彼の願いを無碍にできないことはとっくに見透かされているのかもしれない。そして、心の底では彼に甘えられ、頼られることを嬉しいと思っていることも。 「……わかった、こうしよう。今日一晩はここに泊まってもいい。その代わり、いまからユキト君の家に行こう。この際だから親御さんに挨拶しておく。キミがしょっちゅうウチへ遊びに来てるのは事実だから」 「マジで!?」  どうやらユキトは喜んだようだ。心臓に悪いおねだり顔が、ぱっと無邪気な子供の笑顔に変わる。それだけで私は心の底から安堵する。 「泊まるのは親御さんが許してくれたら、だ。それでいいね?」 「いいよ。はやく行こ」  ウキウキと靴を履くユキトの背中を眺めながら、もしかして自分はいま、とんでもない決断をしてしまったのではないかと思い始めていた。  もしいま彼の両親に会って、今後一切ユキトに関わるなと言われたらどうする。  仕方がないと諦めるか。  それとも、恐れ知らずの若者のように陰で隠れてこっそりこの関係を続けるか。  リスクを承知で、大胆に。  バレなきゃいい、なんてまるで私までユキトに感化されている。彼は私に好意をもっているわけではないだろうが、繋がりを絶ちたくないと言ってもらえるくらいには気に入られている。  これが浮かれずにいられるか? 「先生、でるよ」 「いま行く」  ――ほら見ろ、こんな何気ない言葉でさえ意味深に聞こえるんだから、重傷だ。  玄関にはユキトがクロークから取り出したローファーがきちんと並べてあった。礼を言ってそれを履くと、彼は得意げに目を細める。相変わらず、こういうところがたまらなく可愛い。  家から一歩出れば外はカンカン照りの日差しだ。灼けたアスファルトを歩く足取りも軽やかに、ユキトは私の前を歩く。膝丈のズボンの裾から柔らかそうな太ももをちらりと見せて、ときどきぱっと振り返る。目が合うと照れたように視線を逸らし、今度は少しだけ歩調を緩める。蝉の声に耳を傾けて、とりとめのない会話へ適当に相づちを打っているうちに、あの日の公園を通り過ぎて私たちは隣町まで来ていた。  彼の家が意外と近所にあったことに驚いた。気づいていないだけで、もしかすると小さい頃のユキトとすれ違ったことくらいはあるかもしれない。

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