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第4話

「もう! 社長、本当に勘弁して下さい。今日は大事な会議が有ると伝えたでしょ!」  ホテルの前まで迎えに寄越した秘書は、やはり口煩く怒ってくる。  遅刻した此方が悪いので、大人しく怒られていた。  だが会議にはちゃんと間に合うぞ! 「全く、酷い格好で! 社員に見られたらどうるんですか!」  そうグチグチ言いながら車を走らせている。 「裏口から入るのだから見られる事は無いさ」 「貴方ねぇ! もう少し自覚を持って頂かないと困るんですよ!」 「すまなかったよ」  先程から何度も謝っているのだが、秘書の怒りは落ち着かない様子で、結局、会社に着くまでずっと怒られていた。  社長専用の駐車場に止め、そのまま専用エレベーターに乗れば最上階の社長室まで誰にも会うことはない。  社員も恐らく俺の顔を知らない者が殆どであろう。   社長室には泊まれる様になっており、風呂もベッドも、全部有る。  なので、ちゃんとお風呂に入りたいと思えば入れるのだが、時間がギリギリ過ぎる。  香水で誤魔化すしか無さそうだ。 「早く着替えて下さい」  そう秘書は下ろしたてのスーツを出し、靴まで並べる。  気兼ねする関係でも無いので秘書の存在を気にする事なく服を脱いだ。 「おや、随分とお楽しみだった様ですね」  そう首筋に触れられ、冷たくてブルリと震えた。 「ここにも、此処にも、おや、こんな所まで痕を付けられて……」 「いちいち触らないでくれ。着替えられないだろ」  気づけば自分で見える範囲にも沢山付けられている事に気づき、顔が熱くなるのを感じる。 「随分、独占欲のお強い方を相手にされたんですね」  Yシャツを羽織ると、すかさず秘書がボタンを止めてくれた。 「痕を付けるのが性癖なのだろうか」  橋田くん。変わった性癖だな。何だろう。付ける時の感覚が良いとかだろうか。噛み癖が有るのかも知れない。  行為の最中にキスマークを付けられるのはそこまで変な事でも無く、一夜限りでもたまに付けられている。ちょっと数は多いが……  この調子だと本命の彼女は飛んでもなく沢山付けられている事だろうな。 「昨夜はママじゃ無かったんですね。キスマーク付けて来るような危ない男を相手にするのは止めて下さい」 「うん……」  橋田くんは別に危ない男では無さそうだが…… キスマークを付けるのは止めてくれと頼んでみよう。 「そう言う気分になった時には私を呼んで下されば宜しいのに……」  ハァーと、溜め息をつきつつ、ネクタイを締めてくれる秘書。 「君にそこまでしてもらう訳にはいかないさ」  フッと笑う。  仕事は勿論だが、日常生活の面倒も見てくれるお節介焼きである。  その秘書に下の世話までして貰うと言うのは流石に抵抗があった。 「別に私は仕方ないからしてあげると言う訳では無いのですが……」 「ん?」 「何でも無いですよ。ほら、大人しく座って下さい」  着替えを終えると、秘書に新聞を渡され、座っていろと言われたので座って読む。  秘書はドライヤー等を駆使して俺の髪型を整えてくれた。  それが終わったらテーブルに朝食のハムエッグとサラダを出してくれるのだ。  本当に何でも出来る秘書で助かる。

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