5 / 34

第5話

 会議の時間になり、会議室に向かう。  秘書がピシッとしてくれたお陰で、まさか社長が今朝までセックスし、遅刻して来た男とは思われないだろう様相にしてもらえた。  会議室に入ると既に各社員は揃っている。  空いている上座の席に腰を下ろした。  秘書が議題を口にして、会議がはじめられる。  提携している子会社の社員が成果を発表していく。   年に一度、こうして集められるのであるが、先代の社長があれやこれや手を出していたので業種が多岐に渡り、冷凍食品の話をしていたかと思うと、女性物の下着の話になったりと、割とまとめるのが大変だ。  本業は家具屋である筈だが……  それでも全てまとめて聞いて提案し、業績を伸ばしていた。  気づけば大企業と言っても過言では無いぐらいには大きな会社である。  あれ?  それにしても、何だか違和感を感じる。  今、成果発表してくれているのは下着ブランドを手掛けている会社の社員である。  若いなとか、そう言う事では無くて。聞き覚えのある声だ。  今朝方まで聞いていた……  いや、でも見た目は全然違う。  髪は黒くてモジャモジャだし、分厚い眼鏡、ちょっと根暗そうなイメージである。  声が似ているだけだ。  だが……  どうしよう。  昨夜の痴態を思い出し、股間が反応してしまいそうだ。  大事な会議で社長がチンコをおっ立てる等、大事件である。  誰かに気付かれでもしたら。  そう、ソワソワしてしまう。 「社長、どうされました?」  そう小声で秘書が耳打ちしてくれる。  目敏いなこの秘書は。  思わず睨み見てしまった。 「貴方……」  秘書は本当に目敏いので、下半身が反応してしまっている事に気付いた様だ。 「全く仕方ない人ですね。後で抜いてあげるので我慢してください」  そう耳打ちされる。 『後で抜いてあげる』?  抜いて欲しくは全く無いのである。  本当に親切でしてくれようとしているのだろうが、毎回抜いてくれようとしたり、処理してくれようとするのを止めてほしい。 「……以上になります」  そう、橋田くんの声に似た男は話を終わらせた。  何とか話は聞いていたので、一言二言提言する。  彼で成果報告は全て終わりであるので、トイレに行ける。 「皆さんどうも有難うございます。これからも宜しくお願いします」  そう挨拶し、会議室を出た。  立ち上がる時には秘書がさりげ無く動きで下半身を隠してくれたので、誤魔化せたと思う。 「社長此方へ」 「うわぁ、何だ?」  会議室を出ると、秘書に手を引かれ、隣の部屋へ連れ込まれた。  隣の部屋も会議室であるが、今日は空いていた。 「早くトイレに……」 「抜いてあげると言っているでしょ」 「い、いい。君にそんな事をして欲しくない」  ベルトに手を掛けられ、慌てて振り払う。 「何故です。行きずりの見知らぬ男は相手されるのに私は駄目なんですか」  ムッとした様子の秘書。怒らせてしまった。  手を振り払ったのは悪かった。  会議で反応させてしまうのも悪かったし、遅刻したのも悪かったと思う。  でもこんな事はさせたくない。  彼は忠誠心でしてくれようとしているのであろうが、それが嫌なのだ。 「ほら、貴方のスケジュールは分刻みなんです、トイレでノロノロ抜かれてても困るんです」  秘書はムッした様子で、不機嫌な表情を見せる。 「や、止めてくれ。急いで抜くから……」  そうお願いするが、彼は止めてくれる気は無さそうで、無理にでも進めて来ようとしていた。  いつも嫌がれば直ぐ止め「はい」と素直に手を引いてくれるのに、今日は一体どうしたのだ。 「だから抜いてあげると言ってるでしょ!」  そう怒ってくる。美人が怒ると怖い。 「嫌だ、痛い。手を離してくれ」  強く手を捕まれ、抵抗するが、今度は振り払わせて貰えなかった。  彼が本気になったら、俺では抵抗出来ない。  彼はあらゆる格闘技の有段者だ。 「大人しくしてて下さい。貴方が抵抗しなければ痛くしたりしませんから。可愛がってあげますよ」 「ウッ……ヤダぁ……」 「何で私は嫌なんですか?」 「だって、恥ずかしい」  この秘書とは昔馴染みである。それに仕事上日常的に顔を合せる訳で、そんな人に下の世話までさせたくないのだ。 「恥ずかしがる顔も素敵ですよ」 「ヤッ…ダメ」 「貴方のお尻は良さそうですよ。私を誘っています。ヤラシイ人」 「お尻、触らないで」 「欲しくなってしまいますか? 仕方ない人だ」  呆れられてしまっている。  面倒くさい人だと思われてる。  そう思うと羞恥心と悲しさと、その他諸々の感情が押し寄せて来て、涙が溢れ出して来てしまった。 「そんなに嫌なんですか? 私の事がお嫌いなのですか?」 「嫌いじゃない。でも嫌なんだ。頼むから離してくれ……」 「幸久さん……」  嫌だ嫌だと泣きながら首を振ると、秘書はキッと奥歯を噛み、悲しげな表情をした。  そして、俺の手を離す。 「……すみませんでした。トイレへ行きましょう」  秘書はスッと、ズボンを上げてくれた。  優しく抱き起こし、手を引くと会議室を出てトイレまで連れて行ってくれる。  個室に入って、自慰するが、橋田くんと秘書の顔が交互に思い起こされて困った。  橋田くんは良いとして、秘書までオカズにしてしまうなんて最低な社長だと自分を責める。    

ともだちにシェアしよう!