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第17話 呑み過ぎ秘書さん
酒を飲み過ぎ、具合を悪くした俺は一人で宴席を抜けた。
後から追い掛けて来た橋田にも余計な事をするなとあしらったが、強引に付いてきた。
体も鍛えているし、体術も心得ている。複数の段持ちであるし、力には自信が有るが、橋田も何かをしているのか力強くて追い払えなかった。
「トイレの中まで入って来ないでください」
個室の中にまで着いてくる橋田に流石に追い返して鍵を閉めようとしたが、足で遮られ中まで入って来られた。
「吐けない……」
気持ち悪くて吐きたいのに、橋田が居たのでは吐けない。
「大丈夫ですか? 背中を擦ってますから」
「だからお前が居るから吐けないだよ!」
「大丈夫です。大丈夫です。」
何が大丈夫なのか、背中を擦る橋田。
出て行ってくれない。思わず口調も荒らぐ。
こんな誰が来るか解らないトイレで、隣に橋田が居る。吐ける訳がない。
「オエッ……」
でも、胃からこみ上げて来る物が抑えられる訳もなく、嗚咽する。
人が見てるのに、出したくないのに、出したい……
「見ないで……」
思わず涙目になる。
「大丈夫。気にせず吐いてください」
「頼むから出て行って」
「大丈夫大丈夫」
背中を擦る橋田。出て行って欲しいのに……
「オエッ……」
また喉が熱くなる。気持ち悪い。
「全部出してしまいましょうね。ほら、貴史さん上手に吐けてますよ〜」
「オエッ…やだ、見んな! 出てけよ〜ウウ〜」
吐いている所を橋田に見られるのが嫌だ。情け無い。
同じぐらい呑んだのに、橋田はピンピンしていて、こっちは吐きまくっているのだ。本当に情け無い。
「ウウ、オエッ、ヤッ! 何するんだよ!」
口の中に手を入れられる。もう出したく無いのに。もう無理……
「胃の中空っぽにしましょうね」
「オッオッ、エッ、オエッ……」
もう何も出なくなるまで全部吐き出させられた。
全部吐き出した頃には喉はヒリヒリするし、体の力は抜けて、自力では立てなくなっていた。
いつの間にか橋田に体を支えて貰っていた。
「沢山出せましたね。良く頑張りましたよ」
ヨシヨシと、頭を撫でられ、ハンカチで口元を拭かれる。
このハンカチ、橋田のだろう。
俺ので汚してしまった……
「もう、放って置いて。一人にして下さい……」
荒い息を整え、トイレに体を預ける。
「こんな所に置いておけませんよ」
「止めろってば」
抵抗らしい抵抗も出来ない俺を橋田は抱えてトイレを出る。
何処に連れて行かれるのだろう。
トイレに放置しておいて欲しかった。
一人にして欲しかった。
俺を抱えながら橋田は中居さんを捕まえ、事情を説明して一室押さえた様だ。
中居さんは部屋に案内してくれ、部屋に布団を敷いてれた。
そこに寝かせてくれる。
中居さんは水や手ぬぐいを用意し、出て行く。
「社長か会長に知らせてくれる様に言いましたので、大人しく寝ていてください」
橋田は俺の汗を手ぬぐいで拭ってくれる。
「もう大丈夫です。貴方だけでも戻って下さい」
他の人に心配をかける訳には行かない。それに幸久も心配である。橋田だけでも戻って幸久の側に居て欲しい。
「僕は貴史さんが心配なので側に居ます」
頑な橋田。ちょっと怒っている様にも見てた。
「幸久一人で大丈夫か心配なんです」
「大丈夫ですよ。幸久さん幸久さんと、自分の心配もしてください! 貴方ね、あんな無茶な飲み方は駄目じゃないですか! 急性アルコール中毒にでもなったらどうするんです。兎に角、脱水になりますので水を呑んで下さい。ほら、ゆっくり飲んで」
コップを渡され、飲んでみる。薄い塩味を感じた。
「大体ね、僕は別に幸久さんを貴方から取ろうとしている訳じゃ無いんですよ! そんなに目の敵にしなくたって良いでしょ!」
プンプンと、橋田は怒っている様で、言葉の端々に怒りが溢れ出している。
それでも優しく体を拭いてくれるのだから彼は優しいのだ。本当に優しい男なのだろうと思う。それは解るのだが、腹が立つ。
「取ろうとしてる!」
俺から幸久を取ろうとしてる!
「俺が出来ない事を全部する!」
幸久だってその内、『貴史より橋田くんの方が良い』って言う!
「俺はいくら言っても抱かせて貰えない、ゴルフ教えても上手くならなかったし、チンコだってデカく無いし、酒だってそこまで強くない。抱かれてる側なのに喘がされちゃうし、俺じゃあ満足させられない」
うう〜
悔しくて、布団を握りしめた。
「適材適所です。幸久さんが最も必要だと思っているのは貴史さんですよ。たがら焦らないでも大丈夫なんです」
「俺、チンコ小さい、男同士のセックス解らないもん!」
「教えてあげます!」
「え?」
泣き叫んでしまっている俺を布団に押し倒す橋田。持っていたコップはいつの間か橋田の手の中である。
橋田はコップの水を口に含むと、俺の唇に口付け、口移しで水を流し込む。
「んん、ウッ、うう〜」
「どうですか? キスの仕方はこうですよ」
「ヤッ……」
何度も口付けられ、口移しで水を飲まされる。舌を絡められ、軽く噛まれたり。頭がボーっとして何も考えられない。
「気持いいですか?」
「うん……」
「本当に可愛い人」
頭を撫でられると気持いい。
「眠くなってきましたか?」
「うん……」
「続きはまた今度教えますね」
「うん……」
優しく抱きしめられ、頭を撫でられると安心した。
抵抗せず睡魔を受け入れた。
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