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第20話 平社員は秘書と風呂で遊ぶ
僕の推しである田中幸久さん。今日も男前イケメン。そして、そそっかしいド天然。属性、社長。僕の推し二人目、天野貴史さん。今日も美人でクール。仕事が出来る確り者。属性、幸久さんの秘書。ついでに言うと僕は橋田裕太、童顔のウケ顔がコンプレックス。童顔だから直ぐにセクハラ紛いな事をされるし、タチの人しか寄ってこないし、女性にウケる顔らしく、女性に寄って来られるのも嫌だ。僕は際ゆる女性恐怖症持ちである。だから職場では出来るだけ目立たずモサく見える容姿で過ごしているのだ。
そんか僕が推しの幸久さんと貴史さんの恋路を応援していたりする。そう、僕は属性で言えば平社員、当て馬ポジション。メチャウマイ!
僕が見るに、二人は両想いだ。貴史さんからの愛が大きく見せて、実は幸久さんからの愛が大きいタイプのやつ。
幸久さんは普段はウケであるが、貴史さん相手にはタチもしたい様子。
貴史さんは此方の事には疎そうで、若干危なげだ。
さっきも些細な事でトンデモナイ事になりかけた。
危なかった。
そして何故か今、僕と貴史さんは一緒に部屋の内風呂に入っている。
「月が綺麗ですね」
「え!?」
綺麗な横顔に見惚れていたら、急に告白された!?
何事!?
「え、えっと、こ、困ります〜?」
僕は幸久さんと貴史さんを応援しているのであって、僕×貴史さんなんて求めてないのだ。いや、でも、吝かではないけどね。
「月が綺麗だと何か困るのですか?」
意味が解らないと言う顔をする貴史さん。あ、これはあれだな『天気が良いですね』のノリのやつだ。会話に困って出るやつ。紛らわしい!
「いえ、月より貴史さんの方が綺麗ですよ」
「それはどうも有難うございます」
お礼を言われ、会話は終わり、貴史さんはそのまま外の風景を眺めている。
あ、これはあれだ。会話に困っていた訳ではなく『腹減った〜』的な独り言のパターンだった。
別に会話が無くても困るタイプでもないので、僕も温泉を楽しむ。
内風呂にはアヒルさんがプカプカ浮いていて、それを弾いて遊んでみたり。何となくタオルを沈めて泡を出してみたりしていた。
「へー面白いですね」
貴史さんの声に子供っぽ過ぎたかと思い、視線を向ける。
貴史さんも同じ事をして遊んでいた。
「タオルで遊ばなかったんですか?」
「風呂場で遊ぶもんじゃないと思ってました」
「なるほど〜」
貴史さん育ちが良さそうだもんな。
「こうやって水を弾いたりは?」
「うわっ!」
ピュピュと、水をとばして貴史さんにかける。
貴史さんはビックリした様子で、此方にやり返そうとしている様だが、上手く出来ていない。
何でも出来そうに見えて割と不器用だなぁ。
「ほら、こうですよ。手の中に水を入れてピュピュって」
「ピュピュ…… ピュピュ……」
頑張ってるがお湯がパシャパシャなるだけだ。
「慣れるとこうやって運んで、ピュピュ出来たりします」
「貴方お風呂遊びの達人ですね」
「そうですかね」
この歳でお風呂遊びの達人と言われてしまうと、何か変な遊びをしているみたいただ。
思わずクスクス笑ってしまう。
「そう言えば、橋田さんて名前何でしたっけ?」
不意にそんな事を聞いてくる。貴史さん。
「あれ? 自己紹介してませんでしたっけ?」
初めて会った時に名刺を交換していると思うが……
「何でしたっけ? すみません。何か良くある名前だなぁって思った記憶が有りますね。名字はちゃんと覚えるんですが……」
まぁ、確かに貴史さんぐらいになると覚える人も桁違いであるし、名字を覚えるだけで精一杯か。仕方ない。
「確か…… 一郎さんでしたっけ?」
全然違う名前を捻り出されて思わず笑ってしまう。
「裕太です」
一文字も合ってないですよ。
「裕太さんですね。覚えました」
「呼び捨てで構いませんよ」
「私達、呼び捨てし合うような間柄ではありませんよ」
「えーオフではお友達の様な関係じゃないですか」
「セの付くお友達ですかね」
「セが付かないお友達でも良いですよ」
「考えておきます」
フフッと笑った貴史さんは可愛いから見惚れてしまう。
ぽわ〜んと、なっていたら、貴史さんが水鉄砲をマスターしたらしく、顔にお湯をかけれた。
「おお〜、やった! 出来ました!」
思いの外、嬉しそうに水を飛ばしてくる。もう、可愛くて仕方ないな。
何この人、歩く十八禁みたいな色気を振りまきながら、こんな幼女みたいな一面を見せてきて!
ギャップ萌で殺す気か!
「仕返し〜」
と、水鉄砲でお返しし、いい歳して暫くお風呂で水鉄砲して遊びまくってしまうのだった。
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