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第23話

 食後の後は少しのんびりとし、服を着替てチェックアウトした。  貴史に朝風呂に誘われ、そりゃあもう入りたいのなんのって思ったが、橋田くんに注意されたばかりだし、貴史と今お風呂に入って手を出さない自信も無かった為、泣く泣く断るしか無かった。  本当に残念である。貴史も昨日橋田くんに教えて貰ったらしい遊びを俺にも教えてくれたかったらしく、残念そうであった。  帰路の途中、貴史は道を海の方へと反らす。 「あ、水族館か」  どうやら貴史はデートの約束を忘れていなかったらしい。 「はい、私も見たかったんです」 「イルカ?」 「ええ、赤ちゃんが産まれたそうで。お披露目されたばかりだとか」 「そうか、それは楽しみだな」  頷いて微笑む貴史。貴史は小さい物が結構好きな所がある。子供とか……  そうだ。貴史、子供好きなんだ。  なんだか悲しくなる。貴史に恋しているのか、俺もまだ半信半疑であるが、既に失恋した気分である。 「楽しみですね、裕太も誘えば良かったです」 「お、おおう」  もう呼び捨ててる! 何か急に貴史が橋田くんに心を開きまくっている。  貴史が誰かを呼び捨てするなんて早々ない事だ。  何か不安だ。  それに俺とのデートに他の男を誘おうだなんてどう言う了見だ。  流石に橋田くんでも許せないんだが。 「今度、誘いましょうね」 「そうだな」  誘いたくないが、そんな事を素直に言えるわけもなく頷く。 「貴史は橋田くんの事を気に入っているんだな」  内心、否定して欲しくてそんな質問をする。 「ええ、信頼出来る方だと思います。何度か助けても貰いましたしね」 「確かに信頼出来るな。確りしている」  ただそれだけで、呼び捨てまでする程まで貴史が信頼するだろうか。  いや、貴史はガードが固いからな。  貴史の一番近くに居るのは俺だと疑わなかった。例え、恋人が出来たと聞いても。その恋人より貴史は俺を優先してくれると、何処かで自信を持っていた。  たが、今はどうだろう。  橋田くんに負けそうで少し怖い。 「貴史……」  俺は貴史がやっぱり好きなんだと思う。  自覚していなかっただけで、今でも凄い独占欲だもんな。 「どうしました?」  無意識に名前を呼んでしまったらしく、返事をされてしまった。  他所見をしないで俺だけ見て欲しい。 「海が綺麗だな」  何を言えば良いか解らず視線を動かせば丁度海が見えた。 「わぁ、本当ですね。天気が良くて水面もキラキラしてますね」 「そうだな」  海より貴史の方が綺麗だ。 「今日は空いてるみたいですね」 「並ばずに入れたな」  水族館に付き、チケットとパンフレットを受け取る。  入口のマスコットが楽しげな動きで子供に風船を配っていた。その様子を微笑まし気に見つめる貴史。  やっぱり子供好きなんだな。 「ああ、ここはナマコとヒトデを展示していますね。触っても良いそうですよ」 「ヒトデを触ろう」 「ナマコは駄目なんですか?」  ヒトデをツンツンしつつ、不思議そうな顔をする貴史。  だってナマコってなんか変な想像してしまうし、俺のナマコもお触り自由だぞとか下ネタを口走りそうだ。 「可愛いですね」  ヒトデでも十分楽しんだらしく、フフッと笑って見せる貴史。  いや、お前の方が可愛いわ。  さっきまで入口のマスコットキャラに戯れていた子供達が此方に移動して来るのが見えたので場所を避ける。  先に行こうとする貴史の手をさり気なく掴んだ。 「迷子になったりしませんよ」  急に手を繋がれて驚いた顔をしたが、フフッと笑って見せる貴史。返事はせずに握ったままにする。  川の生き物からはじまり、海の生き物になる。 「次の展示は……」  貴史は一つ一つ展示を移動する事に何の展示か説明してくれる。 「ああ、チンアナゴですね。へー、初めて見ました。新しい展示みたいです」 「……そうなのか」 「凄い長いですね。中に入ったり出たりして可愛いです。わぁ、出てきましたよ」  丁度餌のタイミングだったらしく、チンアナゴは出たり入ったり、飛び出したりと普段より激しい動きをしてくれている様で、貴史もそれを楽しんで見ているが、綺麗な顔で、聞き方によっては凄く卑猥な事を言っている様でドキドキしてしまう。  俺の耳と頭が悪いのであるが、エロい。  俺の、チンアナゴだって長いし、貴史の穴に出たり入ったり…… 「どうしました?」 「うえっ!?」  いつの間にかチンアナゴから視線を外して此方を見ていた貴史にビックリしてしまった。まさか口から出てしまった訳では無いよな!? 「今日は元気が有りませんね。何だか上の空です。疲れちゃいました?」  貴史は心配そうな顔で俺を見つめている。 「すまない。貴史が可愛くて見惚れてた」 「子供みたいにはしゃいでましたか?」 「……うん、楽しそうだなぁって」  思わず思ったままの事を言ってしまったが、貴史が変な受け取り方をしたので、乗った。  貴史は恥しそうな顔をしている。 「えっと、あ、そろそろイルカショーが始まりますね」   話しを変えようと思ったのか、貴史はイルカショーの会場に足を向ける。  まだ早いと思うのだが……  会場に着くとやはり早かった。まだ数人しかいない。大の男二人で前の席に座るのもアレなので、一番後ろの席に腰掛ける。 「何か飲み物でも買って来ます」  貴史は近くに売店を見つ、立ち上がる。 「俺も行くよ」 「すぐそこですので」 「良いだろ?」  だって手を離したくない。  結局ただの珈琲を態々二人で買い行った。  珈琲を買って戻っても、大した時間は経たず、まだショーは始まらない。  まぁ、練習中のイルカが水槽を泳いでいるので、それだけ見ても楽しくはある。 「社長、あの……」 「え?」 「え?」  休暇なのに社長って呼ぶのかと思い、結構低めの『え?』が出てしまい、貴史はビビった『え?』がでてしまった。 「すみません」  何か機嫌を損ねたと思った貴史は何か解らないが謝る。 「休暇中だし、名前を呼んで欲しいな」 「あ、はい。じゃあ幸久さん」  今まで休暇中でも基本は社長と呼んでいた貴史、それに何か文句をつけた事もなかかった為、貴史は不思議そうな顔をしつつ、名前で呼んでくれる。 「呼び捨てがいい」  ちょっと不貞腐れた声が出てしまう。橋田くんは呼び捨てなのに何で俺は『さん』付けなんだ。幼馴染なのに。 「急にどうしたんですか?」  流石に不信そうな顔をしてしまう貴史。 「貴史、あの、あの……」 「……幸久さん?」  何を言えば良いかも解らないが、何か言わなければと声を出す。  貴史に何か言わなければ。  まず何を言えば良いのだろう。昨夜の事を謝って……  ぐるぐると考えている俺に、貴史は不思議そうな顔で見つめてくる。  可愛い。貴史、好き。 「うわぁん! ママーー!!」  急に近くで泣き声が聞こえたと思ったら、子供が貴史の足に抱きついている。  ま、ママ!!?? 「いつの間に産んだんだ!!?」 「馬鹿な事を言わないでください!」  ビックリして手を離してしまう俺、貴史は男の子の頭を撫でる。 「僕、迷子かな? ママ居なくなっちゃったの?」  子供を抱き上げて視線を合わせる。 「うん、ママどこ〜 うわぁーーん!!」  子供は泣き止まない。どうやら母親とはぐれてしまった様だ。 「困りましたね。私はこの子を迷子センターに預けて来ます」  貴史は男の子を抱き上げると、席を立った。 「俺も行く」 「貴方は席を取っておいてください」  少しずつショーを見る為に人が入って来ていた。だが、特別混んでいる訳もなく、場所を取らなくても普通に見られそうだが……  貴史は俺を座らせて、男の子を連れると行ってしまう。  ずっと手を繋いでつきまとってしまったのがウザったかっただろうか……  少しショボーンとなってしまう。    暫くし、迷子のお知らせが流れた。  貴史が迷子センターに子供を連れて行ってくれたのだろう。  だが、もうすぐイルカショーも始まってしまう。  貴史は間に合うだろうか。  イルカショーより貴史が心配である。 「すみません、遅くなりました」 「ギリギリだったな」  息を切らせて戻って来た貴史。どうやら母親が来るまで子供が貴史を離してくれなかったらしい。  親指がベチョベチョに濡れ、真っ赤になってしまっている。 「しゃぶると落ちつく様でして」  貴史は親指をハンカチで拭きながら苦笑して見せる。  俺だって貴史の親指チュパチュパしたい。 「貴史、あのな!」  先ずは昨日の事を謝ろうと口を開く。 「あ、ほら、幸久さん。イルカの赤ちゃんですよ」 「え? ああ、可愛いな」  どうやらイルカショーがはじまったらしい。  先ずは生まれたばかりの赤ちゃんを紹介してくれる。  母親と一緒に泳いでいた。  イルカショーが始まってしまった為、取り敢えずショーを見る事にして、話は後回しになってしまった。  イルカショーを見た後は、先程のエリアの続きから周り、全て回った後はお昼を食べる為に海の見えるレストランに入った。  カモメが飛んでいるのが見える。 「それで、あのな。貴史」 「はい」  やっと謝罪出来る。 「昨日の事なんだが……」 「ああ、変な誤解をさせてしまいまして申し訳ありませんでした」 「いや、俺が悪かったんだ。貴史は何も悪くない。本当にすまなかった。手首は大丈夫か?」  今更であるが、凄く強い力で押さえつけてしまった記憶を思い出したのだ。酔っていたとは言え、しかも『これから貴史を犯す!!』とか、とんでも無い宣言をした気がする。  これは謝って許して貰う案件では無いな。 「ええ、腕は何とも有りませんよ」 「良かった」  グーパーして手首を見せてくれる貴史。さっき手を握った時も見たが何とも無くて良かった。直後にお風呂に入った様だし、温泉の効果も有ったのかも知れないが、痕が残らなくて良かった。 「幸久さんにそちらの趣味もお有りだとは知りませんで、あの、私、良く解らないのですが、準備しますね」 「え?」 「満足して頂きたいので…… どっちも練習します!」  何かを決断した様なキリッとした表情で言う貴史だが、いやいや、待ってくれ。  何を言っているんだ。 「えっと、何処で練習するんだ?」  そう言う話では無いのだが、気になってしまった。 「えっと、裕太にでも教えて貰います。彼なら詳しそうですし」  また橋田くんか。 「駄目だ!」  思わず低い声が出る。イラッとしてしまった。 「では、そういうお店に……」 「それも駄目」  もっと駄目だ。 「駄目?」  全部駄目だと言われてどうしようと困った表情を見せる貴史。  何故良いと言われると思ったのか。 「練習も全部俺がしてやる」  何を言っているんだろう俺…… 「いえ、そんな社長自らなさるなんて…… 手数はお掛けしたくありません」 「俺がしたいから。させて欲しいんだ」 「えっと、あの……」 「貴史、お願い」  貴史は俺のお願いに弱い。  少し目が泳いだが、小さく頷く。 「じゃあ、帰りにお店に寄って買って帰ろうか」 「何のお店ですか?」 「こんな所で言えないお店」 「なるほど……」  困った様な表情をする貴史。其処へ、ちょうど頼んだ料理が届く。  取り敢えず食事をしようと思ったらしい。  礼儀正しい貴史は「いだきます」と手を合わせてから海藻スープに口を付ける。  俺も海藻スープに口をつけた。  橋田くんすまない。君の注意を守れそうにない。

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