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第33話 社長のリベンジ
俺と裕太が押し問答している所へ来訪者が飛び込んで来た。
「幸久さん……」
仕込まれたGPSは解除しておいた筈なのにどうしてここが……
「貴史、すまない! 君がそんなに思い詰めていたとは…… 頼むから他所の男に抱かれに行く様な真似はやめてくれーー」
泣きながら膝をついて謝る幸久。
「朝刊を取りに行った時、慌てた様子の幸久さんと丁度ハチ合わせまして、取り敢えず僕が話しを聞くと言う事で部屋の鍵を預けておきました。ついでに電話を通話状態にして繋いでおいたので話は全部幸久さんも聞いていたと思います」
テヘッと笑いながら通話状態の携帯を見せてくる裕太。クソ、やられた!!
「もっと早く飛び込んで来るかと思いましたが、少し遅かったですね?」
裕太は不思議そうに幸久に話しかける。
「ああ、ちょっと人を呼んでいた」
「誰です?」
二人は会話しつつ、俺の手を掴み、逃さない様にしている様だ。
二人に騙された様で、俺は、腹立たしい。
「僕だよ〜〜」
幸久が呼んだ人が部屋に入ってくる。
俺は、固まってしまった。
「会長!?」
「そう、親父を呼んだ」
何してるんだこの人ーーー!!
「えっと、あの会長、これは…… 申し訳ありません!!」
俺は頭を下げるしか無かった。
どうなるのだろう。解雇とか?
左遷とか? もう幸久さんの側には居られないだろう。
なんせ大事な一人息子をよりにもよって男の自分が誘惑してしまったのだ。
「良いよ? て言うか、僕は幸久と貴史の結婚大歓迎だよ。式はいつのにするの?」
「え?」
聞き間違いだろうか。夢??
歓迎されたような気がする。
「あのね、君は家の歴史とか気にしてくれてるみたいだけど、本当に僕ももうどうでも良くてね、親戚も居るし家は他の継ぎたい人が継いでくれたら良いと思うし、会社も有脳な人物を見極めて任せたら良いと僕は思ってるんだよね。僕は幸久の幸せを一番に願っているんだよ。幸久は貴史にしか幸せに出来ないと思ってるし、何なら早くくっついてくれなあかなぁってパパは思ってましたー」
エヘヘっと笑って言う会長。
俺は、キョトンとしてしまう。
え? 良いのかな。俺、幸久と一緒に居ても良いの? 許されるの?
「男同士ですし、人目も有りますし、本当に幸せになれるんでしょうか? 後々後悔するかもしれません。あの時、私などに操を立てず女性と結婚して子供を作っておけば良かったと、還暦を迎えてから思っても遅いのですよ」
俺はどうしても不安だった。
還暦を迎えた幸久さんに恨まれてしまうかもしれない。私などと出会わなければ良かった等と思われたく無いのだ。
「貴史は俺の事が信用出来ないのか? 俺は、心変わりなんてしない、神に誓っても良い」
そう幸久は俺の手を握りしめる。
「貴史、確かに未来は解らないよ。幸久もこう言っているけど愛が冷めてしまう事も有るかも知れないね。未来は誰にも解らないよ。でも、女性と結婚しても同じだろ? 還暦を過ぎても幸久は君を忘れないかもしれない。あの時、貴史をどうして選べなかったのだろう。好きでもない女と結婚して子供を作って、仮面夫婦を続ける事に何の意味が有るのだろうと後悔するかも知れないよ。君はそれでも良いのかい?」
会長が俺の肩を掴む。
「僕はね、幸久にも君にも後悔して欲しくない。そして君にもパパと呼んでほしい。良いね?」
「パ、パパ?」
「何だい僕の可愛い息子〜」
圧に押されて思わず呼んでしまったが、恥ずかしくなり、俯く。
「どさくさに紛れて何をしてるんです。貴史を困らせないで下さい」
ムッとした様言うと、俺を抱きしめる幸久。
「貴史、俺の事はダーリンと呼んでくれ。マイハニー」
「呼びませんよ」
「えー」
何でこんな話になってしまったんだ。何だマイハニーって。
「指輪は受けとってくれるか?」
幸久はポケットから箱を取り出す。パカッと開き、中から昨夜の指輪を取り出した。
「えっと、では…… 宜しくお願いします」
俺は、頭を下げると手を差し出した。
幸久さんは笑顔を見せると指輪を俺の薬指に……
「あの、幸久さん…… ちよっと……」
「あれ? 入らない……」
少しサイズが小さい様だ。どんなに頑張っても入らない。
「緊張してサイズを間違えてしまったようだ」
恥しそうに言う幸久さん。幸久のこういう抜けてる所も俺は大好きだったりする。
「今度は私も、一緒に連れて行って下さいね」
そう、言って笑いかける。
会長と裕太は手を叩いて紙吹雪をまいてくれた。たった今千切った紙を投げているたけだけれど。
「おめでとう」「おめでとう」と、祝福してくれていた。
幸久は笑顔で頷くと、指輪の変わりにと、俺の薬指に口づけを落とすのだった。
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