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第7話

 指で頭を撫でながら、留守番電話が点滅していることに気がついた。ボタンを押すと、実家の母からだった。 「もしもし、私だけどね、淳一元気かい? ご飯はしっかり食べているのかい? 野菜だとか米を送ったからね、ご飯だけはちゃんと食べるんだよ」  襟元をゆるめながら郵便物の束を確かめると、不在届けが混じっていた。ときどき母はこうやって食べ物などが入った荷物を送ってきてくれる。まるで犬飼がまだ小さな子どもだというかのように。  冷蔵庫から缶ビールを出すと、ステイオンタブを引き上げた。冷たいビールが喉に伝わっていく。 「そうそう、あんたの従妹の紀ちゃんが今度結婚するんだって。相手のひとは小学校で先生をやっとるんだってよ。あんたはどうだい? いま付き合っとるひとはおらんのかね? あんたが選んだひとなら母さんたちは反対せんけん、一度こちらに……」  ピー、という電子音と共に留守電が途中で切れた。犬飼は深いため息を吐くと、メッセージを削除し、ソファに腰を下ろした。座ったとたん、それまで忘れていた疲労がどっと押し寄せる。  人当たりのよい犬飼は、昔から女の子にそこそこモテた。ガツガツしていない態度が一緒にいて安心するのだという。  これまでつき合った彼女はいたし、自分に好意を向けてくれる女の子は素直にかわいいと思う。つき合っている相手は大切にしたい。その気持ちは決して嘘ではないのに、いつも心のどこか一歩引いたところから冷めた目で眺める自分がいる。  自分は一度でも、誰かを本気で好きになったことがあるのだろうか。  すっと温度が下がるように、頭が冷静になる。全身を氷水で満たされたみたいに、ひっそりとした恐怖が押し寄せる。  遠い昔、犬飼がまだ中学生のときに、淡い好意を寄せた相手がいた。周りの同級生たちは女の子に夢中なのに、気がつけばいつも自分が目で追っているのは、同じく女の子に夢中なあるひとりのクラスメイトの友人だった。  その友人の笑顔に胸がときめく。ふざけて肩を組まれると、顔が熱くなり心臓がどきどき鳴って、相手に気づかれるんじゃないかと怖かった。  自分はどこかおかしいんじゃないか。

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