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第8話
他人と違うことを認めるのは恐怖で、犬飼は自分の気持ちに気づかない振りをした。
それから何人かの女の子とつき合ったけれど、気がつけば犬飼の背後から影があとをついてくるように、すーっと気持ちが冷静になるときがあった。そうなると、それまでつき合っていた彼女とも、うまくはいかなくなった。
――淳一って、私のことが好き? 本当に?
責めるように傷ついた目を向ける相手に、犬飼はそれ以上引き留めることはできなかった。
いったい自分の何がいけなかったのだろう。彼女のことは好きだった。やさしくしたいと思っていた。でもそれは本当に? 好きって何だ……?
中学のときの淡い初恋にも似た思い出は遠い記憶の隅に追いやったまま、犬飼は自分の思いを封印した。
自分には恋愛は向いていない。
そう開き直ったら、反対に気持ちは楽になった。いまでは、相手が好意を寄せてくれることに気がつくと、さりげなく遠ざけてしまう。ただひとつだけ、実家の両親に対して申し訳ないという罪悪感はある。
ふいに、周囲との和なんてくだらないと言い放った後輩の顔が浮かんだ。一向に職場に馴染む気配のない問題児を思い出し、ため息が零れる。
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