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第13話

 犬飼さんどうぞと透明のプラスチックカップを渡され、ビールを注がれる。自分も外に出たがるようすのクロを、わずかに開けたバッグの口から手を差し込み、頭を撫でてやる。 「犬飼さん、飲んでますか? わー、クロ、久しぶりー」  自分の酒とつまみが載った紙皿を手に持った向井が移動してきて、犬飼の隣に座った。触っていいですかと、キャリーバッグの中をのぞき込む。そういえばこいつもクロがまだ小さかったときに、休憩時間にはよく遊んでくれていたことを思い出す。 「どうぞ。ただ、外には出すなよ」 「はーい」  向井は酒のカップとつまみ皿を地面に下ろすと、犬飼が寄越したキャリーバッグをわずかに開けた。手を差し込み、甘えるようにその手に頭を擦りつけるクロを撫でてやる。 「お前、毛並みがツヤツヤだな~。きっと犬飼さんにかわいがってもらってるんだろうな」  向井がクロをかわいがっているようすを横目に見ながら、犬飼はスタッフの人と酒を飲みながら歓談する。暑くもなく寒くもなく、昼間から外で酒を飲むには気持ちのいい午後だった。ときおり吹く風がほんのわずかにひんやりとしていて、それがまた心地いい。そんな中、瀬戸は相変わらず誰かと会話することもなく、ひとりぽつんと離れた場所で酒を飲んでいる。普段の態度が態度なので、進んで瀬戸に話しかけようとする者はいない。誰かが取り分けた紙皿に載った料理は、ほとんど手つかずだった。  そんなに嫌ならなぜきたんだ?  そのまま放っておいてもよかったが、みんなで一緒に飲んでいるのに、まるで瀬戸ひとりを苛めているような気持ちになってくる。犬飼は腰を上げると、自分のカップを手に瀬戸のいるところへと移動した。 「ここいいか」  瀬戸がちらっと犬飼を見た。 「何ですか。みんなと楽しそうに飲んでいたんじゃないんですか」 「そうなんだけどな。たまにはこんな機会も悪くないんじゃないかと思って」 「こんな機会ってどんな機会ですか。犬飼さんのことだから、俺がひとりで飲んでいたら、仲間外れにでもしている気分になったんじゃないですか」  ずばり考えていたことを当てられて、犬飼は苦笑した。瀬戸が嫌そうだったらそれ以上は無理強いせずに戻るつもりだったが、瀬戸がわずかに横にずれたので空いたスペースに腰を下ろした。 「……とりあえずまあ乾杯?」

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