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第14話

 犬飼が差し出したカップに、瀬戸が無言で自分のカップを合わせた。勢いで瀬戸の隣にきたものの、正直そこから先は何も考えていない。仕事以外のことで共通の話題などあるはずもなかった。 「安西さんとこの仕事はどうだ?」 「いくつかデザインのサンプルを見てもらったところです。こういうふうにしたいというイメージがお客様の中ではっきりしているので、こちらとしてはやりやすいですね」 「そうか……」  瀬戸とお客様との間で信頼関係が生まれている以上、これから向井が加わるのは難しい。向井にはかわいそうだが仕方ないなと決断しながらビールを飲んでいると、何気なく目を向けた先に、瀬戸がカップに口をつけているものが見えた。犬飼が飲んでいるビールと同じく金色の液体だが、ビールとは違う。瀬戸の手の中で、とろりとした液体がなんだかとてもおいしそうに見える。  「お前それ何飲んでんの?」 「アイスワインです。飲みますか?」  瀬戸が何かを勧めることなど珍しくて、犬飼はカップに残っていたビールをぐいっと飲み干した。「飲む飲む」と空になったカップを出そうとした瞬間、顔の前にずいっとカップを差し出された。ついいましがたまで、瀬戸が飲んでいたカップだ。 「へ」  眼鏡の奥から自分を見つめる瞳に促されるように、犬飼はカップを手に取った。魔法をかけられたみたいに、そのまま口に含む。ごくりと飲み込むと、さっぱりとした、けれど芳醇な甘さが口の中に広がった。 「どうですか?」  笑顔のひとつでも浮かべたら全然印象が違うだろうに、端正な顔が無表情に犬飼を見ている。明るい日の下で、黒一色に思えた虹彩はわずかにヘーゼルがかっていた。普段は気づかない長い睫毛が目の中に入りそうだなと思ったら、一気にアルコールが回ったみたいにお腹の底がカッと熱くなった。 「う、うまい」

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