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第19話

 気がつくと、その場には冷めた空気が流れていた。まるで向井の言い分を信じているようなスタッフの顔に、犬飼は愕然となる。  まさか信じているのか? 瀬戸が他人のデザインを盗るようなやつだと? 本当に?  犬飼が内心で苛立ちを募らせたときだった。 「瀬戸! お前だろう! お前が盗んだんだろう! どこだ! 俺のデザイン画を返せ!」 「……くだらない。なんで俺がそんなことをしなきゃならないんだ」  そのまま仕事に戻ろうとした瀬戸に、バカにされたと思ったのだろう、向井の顔にカッと血の気が上った。 「ふざけるな……っ!」  激昂した向井が、瀬戸の胸ぐらをつかむ。 「お前、俺たちのこと、どうせバカにしてるんだろう! でかい賞を取ったからって、それが何だっていうんだ! 大した努力もしてないくせに、くだらないことで頭を悩ませている俺たちが、さぞやバカみたいに見えるだろうな! 知ってるんだぞ、お前、前の会社でもデザインを盗ったんだってな! 他人のものを盗んでよく平気だよな!」  一方的に罵倒されても、ひとことも言い返すことなく、冷めた目で向井を見つめ返す瀬戸を見た瞬間、犬飼はその場に飛び出していた。 「お前ら、いったい何やってる!」  ふたりの間に割り込むと、驚く向井の頭をぺちんと軽くはたいた。 「少しは頭を冷やせ! 瀬戸がそんなことをするはずがないだろう!」  それからじっとこちらを見る瀬戸に向き直り、同じようにその頭をはたいた。 「お前もだ、瀬戸! 違うなら違うとはっきり言え! 自分のことなのに、疑われてもどうでもいいような顔をするな! それからな、向井。さっきの、瀬戸が大した努力もせずにっていうお前の言葉は、はっきり言うが間違っているぞ」  さも意外なことを言われたように、眼鏡の奥で瀬戸の目がわずかに見開かれる。思いがけず素直な反応に、犬飼は一瞬だけあれっと思うものの、そのことに深く考えるだけの余裕がない。

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