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第20話

「……犬飼さんはそいつのこと信じるんですか」  いじけた顔で、こいつらしくない卑屈な目で、向井がじっと犬飼を見た。それを見て、こいつはしょうもないなと内心で嘆息しつつも、犬飼は苦笑した。 「信じるよ。瀬戸はそんなことをするやつじゃない」  まるで拗ねた子どものように、向井は唇を噛みしめるとうつむいてしまった。カラーリングした後頭部を、犬飼はやや乱暴なしぐさでクシャッと撫でた。 「ほら、落ち着け。落ち着いて、もう一度よく考えてみろ。なくなったデザイン画を最後に見たのはいつだ?」  最初は犬飼の言うことを素直に聞くのに躊躇っていた向井だったが、ふと考える仕草を見せると、突然はっとなったように顔を上げた。慌てたようすで机の引き出しを漁り、A4サイズのスケッチブックをパラパラと捲る。その中から一枚のデザイン画がハラリと出てきて、あっと声を上げた。 「あった! そうだ、昔のアイデアで何か使えるものがないかと捲ったんだった……」  向井は愕然とした顔で呟いた。 「あ、あの、お騒がせしてすみませんでした!」  勢いよく頭を下げた向井に、事務所の中にほっとしたような空気が流れた。向井自身、なんだかまだ納得がいっていないような、狐につままれたような顔をしている。 「まだ何か言うことがあるだろう?」

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