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第21話

 犬飼が促すと、向井はわずかに悔しそうな表情を滲ませたあと、瀬戸に向き直り、「……疑って悪かった」と頭を下げた。 「……別に構わない」  瀬戸は何とも形容しがたいような、おかしな表情を浮かべている。 「さ、仕事だ。仕事に戻ろう」  犬飼の呼びかけに、スタッフはそれぞれの仕事に戻った。が、瀬戸だけはその場に突っ立ったまま動かない。 「どうした?」  訊ねると、瀬戸にしては珍しく何かを迷う素振りを見せた。しかし、すぐに諦めたように息を吐くと、何でもありませんと答えた。 「そうだ、午後からいらっしゃる新規のお客さまなんだが、お前にも立ち会ってほしい。時間はあるか?」 「大丈夫です」  瀬戸の態度に若干釈然としないものを感じながらも、ひとまず大事に至らず済んで、犬飼はほっとしていた。そのうち何とかなるだろうと放置していたが、向井と瀬戸の件は早急に何とかしなければならない。 「あ、瀬戸」  仕事に戻ろうとした瀬戸を呼び止める。何かを言いかけ、迷うように口を噤んだ犬飼に、瀬戸が「何ですか」と訊ねた。 「お前、きょうの夜って、何か予定はある?」 「別にないですけど」  訝しむ瀬戸に、犬飼は躊躇った。しかし、ここで怯んでいては話が進まない。 「たまにはその……、一緒に飲まないか? ……ほら、この間の花見んときみたいに、気分を変えるのもいいんじゃないかと思うんだ」  まるでこちらの考えをはかるような瀬戸の眼差しに、思わず目が泳ぐ。瀬戸のことだから、プライベートと仕事は別だとはっきり断られると思っていたのに、「構いませんよ」と意外な答えが返ってきて、犬飼は「えっ、マジでっ?」と呟いていた。 「何ですか、嘘だったんですか」 「いや、嘘じゃないけど……」  もごもごと口ごもる。  瀬戸と飲む? 今夜? 本当に?

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