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第23話
犬飼が袋を受け取ると、向井は何かまだ言い足そうな顔をして、じとっとした目を向けてきた。その足元を、それまでどこかに隠れていたクロが姿を現し、甘えるようにナアと鳴いた。
「クロー!」
クロを抱き上げ、頭を撫でる向井を見て、犬飼は「あ、ようやく出てきたか」と言った。実は玄関で自分と一緒に帰宅した瀬戸を目にするなり、ぴゅーっとどこかに隠れてしまったのだ。そういえば、前に会社に連れて行っていたときも、瀬戸はいつもクロとは距離を取っていた。もしかしたらあまり猫が得意ではないのかもしれない。万が一アレルギーでもあったら大変だと、今更ながらに慌てた心地になる。
「悪い、何も考えずに勝手にうちに決めてしまったけど、お前猫大丈夫だったか? アレルギーとかないよな?」
「昔、実家で飼っていたことがあるので大丈夫です」
犬飼はほっとした。
「自分は嫌いじゃないんですが、昔からなぜか自分のそばには寄ってきませんでした」
「お前、それは……」
思わず返す言葉を失った犬飼の横で、
「お前、それは明らかに嫌われてんだよ!」
向井は犬飼が思っても遠慮して言わなかったことをずばり口にした。
「そうか、瀬戸は猫に嫌われるのか! かわいそうになあ!」
まるでわざと瀬戸に見せつけるように、抱き上げたクロを瀬戸のほうへと向ける。何気なく瀬戸が手を伸ばそうとすると、それに気づいたクロが素早く猫パンチした。
ぶっと隣で吹き出す音が聞こえた。犬飼もとっさに顔をそらし笑いを堪えるが、ちゃんと隠せていたか自信がない。無表情だがどこか不本意そうな瀬戸を前に、向井は腹を抱えてげらげら笑っている。
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