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第34話

 何かを考えるように瀬戸がじっと犬飼を見る。犬飼はそわそわと落ち着かない心地になった。 「避けてないのなら、今夜いいですか」  いいよ、と答えたあとですぐに後悔した。  瀬戸がにっこりと微笑んだ。 「よかった。犬飼さんに避けられてないと聞いてほっとしました」 「あ、あの瀬戸……」  やっぱりきょうは、と言い掛けて、犬飼は言葉を呑み込んだ。 「どうしましたか、俺のこと、避けてるわけではないんですよね?」  まるでこちらが迷っていることまですべてを見透かしたような瀬戸の瞳に、犬飼は唇を噛みしめる。  瀬戸のことが嫌いになったわけではない。瀬戸は犬飼に対して何もしていない。ただ、犬飼のほうでいまは瀬戸とふたりきりになりたくないだけだ。  ほとんど八つ当たりに近いとわかっていても、自分ひとりが追いつめられた状態になっていることに、犬飼は面白くない気持ちになった。 「……お前さ、なんでそんなに俺と飲みたいの。ほかにいくらでも相手がいるだろう」  瀬戸がわずかに首を傾げる。何かを考えているような不思議な色合いの瞳に、犬飼はどきりとした。 「犬飼さんが好きだからですよ」  およそ考えてもなかった答えが返ってきて、犬飼は頭の中が真っ白になった。  は? 好き? 好きって何が? 瀬戸が俺を? それってどういう意味だ?

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