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第48話
まっすぐに瀬戸の目を見て話しかける犬飼を、瀬戸が呆然とした顔で見つめ返す。その目がまるで不安げな子どものように揺れた。
そうだ、瀬戸がデザインの仕事をどうでもいいと思っているわけがない。でなければあれほどひとの心を動かすデザインが作れるはずがない。自分が夢みたいなことを言っている自覚はあったが、犬飼はそう信じた。それに――。
犬飼は知っていた。瀬戸が、どれほど真摯に仕事に向き合っているのかを。誰よりも努力してきた姿を、犬飼はこれまで何度も見てきたのだ。
「……お前さ、本当はショックだったんじゃないのか。その上司に裏切られたとわかったときに。自分のデザインが盗用したものだと言われて、本当は悔しかったんじゃないか」
瀬戸が唇を噛みしめ、うつむく。その形のよい頭部を眺めながら、犬飼はお前ばかだなあと内心で呟いた。ずっと悔しいって、言えなかったのか。ほんとにばかだなあ。
「AOCのコンペ、絶対取るぞ」
いいな、と念を押しながら、目の前にある、やや癖のある髪をくしゃりと掻き混ぜた。
「瀬戸」
瀬戸は犬飼に撫でられた頭を手で押さえると、のそりと顔を上げた。
「お前がひとを信じられなくなった気持ちはわかる。でも、そんな関係がすべてだとは俺は思わない。少なくとも、この職場のひとたちは違うよ。もちろんすぐにとは言わない。でも、できることなら、あいつらのことを信じてみないか。お前を裏切るばかりのやつじゃないよ」
何か物言いたげに瀬戸が犬飼をじっと見た。やがて瀬戸はぺこりと頭を下げると、そのまま会議室から出て行った。
犬飼は背もたれにもたれかかると、目を閉じた。ふーっと、長い息を吐く。瀬戸の前では表さなかったが、胸の中ではいまだ激しい怒りが渦巻いていた。
鳳凰堂のやり口は汚い。瀬戸の過去の話も、決して許せるものではなかった。同じデザインを職業にしている者として、そしてひとりの人間としても、犬飼は何としてもこのコンペに勝たなければならなかった。
目を開け、身体を起こすと、犬飼は何かを考えるようにある一点をじっと見つめ続けた。
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