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第50話
焦る犬飼を尻目に、会議はお開きの空気が流れた。そのときだった。瀬戸はその場に立つと、スタッフに向かって深く頭を下げた。
「今回の件は、俺と前の職場とのトラブルが原因で起こったことです。ご迷惑をかけて申し訳ありません」
会議室の中は、しん、とした空気に包まれた。これまで他人のことなど歯牙にもかけなかった瀬戸が、みんなに頭を下げたのだ。ほかのスタッフと同様、犬飼も信じられない思いで瀬戸を見る。
「俺ひとりの力では勝てません。どうか、協力してください。お願いします」
「瀬戸……」
そのとき、別にいいんじゃないですか、という声が聞こえた。
「瀬戸がここまで言って頭を下げてるんだ。協力するくらい大したことじゃないでしょう。それに、このままじゃなんか悔しくないですか」
「向井……」
犬飼が見ると、向井は照れくさそうに笑った。反対の声を上げるものはどこにもいなかった。それを見て、笠井が「それでいいな」と話を締める。誰も考えていなかったことを瀬戸が口にしたのはそのときだ。
「今回のコンペは、俺のデザインではなく、犬飼さんを中心にいきたいと思います」
「は、お前何言ってる……?」
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