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第52話
瀬戸の説明に、笠井は腕を組み、考えるそぶりを見せた。
「それが犬飼のデザインなら、お前は勝つ可能性があると言うんだな」
「はい」
瀬戸の答えに迷いはなかった。
「わかった。そしたら今回は犬飼のデザインでいこう」
予想外の展開に、犬飼は待ってくれと心の中で叫ぶ。
「瀬戸は犬飼のサポートにまわってやってくれ。みんなもいいな」
「わかりました」
会議はそれでお開きになった。手元の資料をまとめ、スタッフが席を立つ中、犬飼は会議室から出ていこうとする瀬戸の腕をつかんだ。
「瀬戸!」
無理だ、お前にできないものを俺ができるはずがない。
内心の焦燥を募らせ、言葉につまる犬飼に、瀬戸が「犬飼さん」と静かに呼びかけた。
脇の下を冷や汗が伝う。だけどこれだけはどうしても止めなければならない。
「……俺には無理だ。笠井さんにはもう一度俺から話しておく。AOCのデザインは当初の予定どおり、お前がやってくれ」
「やる前から諦めるんですか」
ひどく落ち着いた声を出す瀬戸が腹立たしくて、犬飼は「そうだよ!」と声を荒げた。
ふいにやり場のない苛立ちと焦燥がこみ上げ、犬飼はそれ以上瀬戸を見ていられずに顔をそむける。
俺だってこんなこと言いたいわけじゃない。瀬戸に当たっても仕方ないことはわかっていた。犬飼がもっとも腹を立てているのは瀬戸ではない、不甲斐ない自分だ。
やる前からできないと認めるのは情けないことだ。しかし、これは犬飼だけの問題じゃない。犬飼は自分の才能の限界をわかっていた。自分には、どうしたって瀬戸や笠井みたいなデザインをつくることはできない。自分の小さなプライドなど、この際ささいなことだ。
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