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第56話

 コンペの結果が出る前の晩、犬飼は瀬戸を自宅に誘った。瀬戸が犬飼の家を訪れるのは、久しぶりのことだった。内心では緊張を滲ませながら、話があると告げた犬飼に、何か仕事のことだと思ったのか、瀬戸は疑問に思ったようすもなく、わかりましたと答えた。  自ら先に家に入り、どうぞ、と招き入れる犬飼に、瀬戸がお邪魔しますと続いた。 「ただいまー、クロー」  犬飼は玄関まで出迎えたクロを抱き上げると、大人しく留守番をしていたことを褒めてやった。カリカリを専用の皿に出してやると、お腹を空かせていたのか、クロは皿に頭を突っ込んで餌を食べた。その間も、犬飼は背後に立つ瀬戸の存在を意識していた。 「何か食べるか」  冷蔵庫を開け、すぐにできるものがないか考えながら振り返る。 「いえ。話が終わったらすぐに帰るので」  言葉通り話が終わったらすぐにでも帰ろうとしている瀬戸を見て、犬飼は冷蔵庫の扉を閉めた。 「そうか……」  じっとこちらを見る瀬戸に、犬飼はこれから自分が言うこと思い、緊張を募らせた。じわりと背中に冷や汗をかく。犬飼は大きく深呼吸すると、普段とは違う自分のようすに、やや不審げな表情を浮かべる瀬戸を見た。 「俺は、瀬戸が好きだ」  思い切って告げた瞬間、どっと汗が噴き出した。心臓が飛び出しそうなほど鳴っている。もしかしたらもう手遅れかもしれない。けれど、どうしても伝えずにはいられなかった。 「俺は、お前のことが――」

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