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第60話
瀬戸がベッドに体重をかける。スプリングがギシ、と鳴った。両手で頭を包み込まれ、ねっとりとしたキスを交わす。瀬戸のキスはあまりに気持ちがよくて、意識を保つのが難しくなる。その場の勢いに流されそうになった犬飼は、必死に瀬戸のキスから逃れようとした。
「瀬戸、クロが……っ」
「猫なんてどうでもいいんです」
そのときになって、犬飼はようやく瀬戸がわずかに苛立っていることに気がつく。
「瀬戸……? お前何怒って……?」
「怒ってなどいません。でもいまは、俺だけを見てください」
犬飼の頬へ、そして耳朶から首筋へとキスを落としていきながら、「お願いですから、せめてきょうだけは……」とささやく男に、犬飼は唖然となった。
「……お前、それだとクロに嫉妬しているみたいだぞ」
いくらなんでもそれはないだろうと思いながら言う犬飼に、瀬戸は平然としたようすで「あんたにとって、いつだって一番はあの猫ですから」と告げる。
「……お前、相手は猫だぞ?」
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