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第65話
わかってる、ともう一度うなずきながら、犬飼は破裂しそうな心臓を必死になだめる。瀬戸とセックスするのが嫌なわけでは決してないのに、自然と身体に入った緊張を解くのは大変だった。
近づいてくる瀬戸の気配に、思わずぎゅっと目をつむった。すぐに行為がはじまるかと構えていたのに、ふわりとやさしく唇に触れる気配がして、身体から力が抜けた。
――あ、こいつの匂いだ。
いつものグリーン系の匂いが鼻先をかすめた。おそるおそる目を開けると、ひどくやさしい目で自分を見つめる瀬戸の顔があって、どきりとした。
「怖いですか?」
違うと否定しようとして、瀬戸があまりにやさしい顔をしているから、「少しだけ……」と本音が零れ出た。
「でも、お前とのセックスが嫌なわけじゃない。そうじゃなくて、こういうの、あまり慣れてないっていうか、その……」
もごもごと口ごもる犬飼に、瀬戸は俺も同じですよ、と明らかに犬飼でもわかる嘘を言った。悔しいけれど、これまでの瀬戸を見る限り、明らかに自分よりも場慣れしている。
口にはしないが、犬飼の反応で納得していないことがわかったのだろう、瀬戸が真面目な顔で、本当ですと言った。
「あんたに嫌われるんじゃないかと、ずっとどきどきしてる。だから同じです」
手をつかまれ、導かれた先の瀬戸の鼓動が自分と同じくらい速いことに気づき、犬飼は驚いた。
手のひらから瀬戸の体温が伝わってくる。自分とは違う、細身だけれどちゃんと鍛えたきれいな筋肉がついた身体だ。犬飼の視線を感じて、瀬戸の膨らみがズボンの上からでもぴくりと反応した。犬飼はこくりと喉を鳴らした。
「わかりますか、早くあんたに触れてもらいたくてたまらないんです」
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