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第66話

 犬飼は瀬戸のズボンに手を伸ばすと、慣れない手つきでベルトを外した。自分でするのとは違って、他人のズボンを脱がすのは難しい。そのようすを、瀬戸が食い入るような眼差しでじっと見ている。  ようやく瀬戸のズボンを脱がしたとき、犬飼は自分よりも遙かに立派なそれにそっと手を触れた。瀬戸が切なげに目を細める。張りつめた瀬戸のペニスからは透明な滴が滲み、ベルベッドのような感触がした。犬飼の胸にいとしさが増す。 「あたたかい……」  呟いたとたん、引き寄せるように強く抱きしめられた。 「あっ」  瀬戸の手が自分の臀部にのびても、もう少しも怖いとは思わなかった。いつの間にか犬飼の身体からは緊張がほどけ、少し前まで部屋の中に入ろうとしていた小さな爪音が止んでいたことにも気づかなかった。  昔自分の性嗜好を疑ったときに、一度だけ後ろで試してみようとしたことがあった。結局快感を追うよりもためらいや恐怖、そして何より後ろめたさが勝って、自分の指一本も挿れることができなかった。そこに、いまこれから瀬戸のそれを挿れようとしているのだ。

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