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第67話

 手のひらにたっぷりハンドクリームを出した瀬戸が、両手であたためるような仕草をしてから、犬飼の後孔へと手を伸ばす。 「……っ」  犬飼はこぶしを口元に押し当て、悲鳴を飲み込んだ。瀬戸の細長い指が自分の後孔に入っている。クリームのぬめりを借りて、瀬戸の指は犬飼の快感を探るようにゆっくりと上下に動かす。最初は一本だけしか入らなかった指が少しずつ本数を足され、身体の奥が拓かれていく。瀬戸が指を動かすたびに聞こえてくる溶けたクリームの濡れた音が、たまらなく恥ずかしい。 「犬飼さん、痛みますか?」  犬飼の身体を気遣う瀬戸の言葉に、犬飼は「大丈夫だ……」と答える。嘘ではないが、本当でもない。瀬戸が慎重に進めてくれているおかげで痛みは感じないのだが、違和感が強い。そのとき、内部を探っていた瀬戸の指が犬飼のある一点に触れた。 「あぁ……っ!」  さっきまで犬飼のそれは元気をなくしていたのに、いまや腹を叩かんばかりに勃ち上がっている。その先からはぽたぽたと透明な滴を零していた。 「あァッ、瀬戸……ッ!」  ぎゅっと眉間に力を入れた目尻から、こらえきれず涙が伝い落ちる。これまで感じたことのない強い刺激に、犬飼の身体はそれを快感だと受け止めることができない。 「ふっ、あぁ……っ」 「大丈夫ですから、ゆっくりと息をしてください」  涙に濡れた頬に瀬戸の手がやさしく触れる。こちらを見下ろす瀬戸の瞳は、これまで見たこともないような真剣な色を浮かべていた。  犬飼は腕を伸ばすと、汗で乱れた瀬戸の黒髪をそっと撫でた。 「お前が好きだ」  瀬戸は、ひたりとこちらに据えた瞳を切なそうに細めると、まるで神聖な儀式でも行うかのように、犬飼の手のひらから腕の内側の柔らかい部分に、順々に唇を押し当てた。それから犬飼の指先にそっとくちづける。 「俺もあなたが好きです。……たまらなく好きだ」

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