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第70話

 結局のところ、AOCのコンペにKプロダクトは勝てなかった。寝る間を惜しみ、スタッフが一丸となって挑んだコンペだったが、あと一歩のところで結果には届かなかった。  コンペの結果が出たあと、AOCの担当者から会社には内密で会ってほしいと密かに呼び出された。呼び出された喫茶店には、瀬戸とふたりで向かった。  担当者によると、ほぼ鳳凰堂で話が決まっていた今回のコンペだが、犬飼たちのつくったデザインを見て、AOCの担当者全員が言葉を失ったという。それぐらい、Kプロダクトのデザインは素晴らしかったと担当者は言った。いったんはKプロダクトのデザインで決まりかけたのだが、しかし例の上役が逆に意固地になってしまったことで、結局は鳳凰堂に決まったのだという。 「力が及ばず申し訳ありませんでした」  頭を下げる担当者に、犬飼は瀬戸と顔を見合わせた。 「頭を上げてください」  犬飼は慌てて止めたが、担当者はなかなか頭を上げようとはしない。内心で困ったなと思いつつ、犬飼は自分と同世代の担当者の名前を呼んだ。 「謝っていただくことは何もないです。うちの力が及ばなかっただけです」  穏やかな声で事実だけを述べる犬飼に、担当者はようやく頭を上げた。  でも、この次は絶対にうちがとりますよ、とほほ笑む犬飼に、担当者は唇を引き締めると、再び頭を下げた。 「コーヒー冷めちゃったな」  AOC担当者が帰ったあと、犬飼はほとんどそのままだったコーヒーを口に含み、眉をひそめた。新しく頼みますか、と訊ねる瀬戸に、いやいい、と断ると、一息で飲み干した。戻ろうか、とテーブルに残された伝票を手に取り席を立つ。

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