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第10話

 コンコンと部屋のドアが鳴った。 「おい、誰か来たよ。やべえよ。こんなところ見られたら」 俺は布団で裸を隠した。 「大丈夫ですよ。ホテルの人じゃないですか?」 栃木は余裕で裸のままベッドを抜け出すと、部屋の中を歩きまわり、バスローブを探し出して身にまとう。 「なに見てるんですか?」 後輩は振り向いて微笑んだ。 「見てねえよ!」 俺の顔は熱くなる。  栃木がドアに近づいて返事をすると、ドアが開いて結婚式場のスタッフが顔を出した。 「ご結婚、おめでとうございます。そろそろ、お式のお時間です」  は?  俺は、回想していたんじゃなかったのか?  いつ結婚式当日になったのか?  栃木が、にっこりと振り返る。 「もう、認めちゃいましょうよ。俺が、好きだって」 栃木は、ベッドに歩み寄り、ふとんを剥いだ。 「見るなー!」 俺は、前を隠した。 「お楽しみは、こ・ん・や」 後輩は笑って、指先で俺の頬に触れた。  俺の顔がますます熱くなる。  俺たちは、それぞれのしたく部屋にわかれた。  俺が白いタキシードに着替え終わり、会場に行くと、知り合いがみんな来ていた。 「栃木さんの結婚相手が、茨城さんだったなんて」 女子社員が泣き崩れている。 「栃木君、かわいぃ。ドレス似合うぅぅ」 「栃木君、こっち見てー」 カメラのフラッシュの中に、真っ白なウェディングドレスを着た栃木がいた。  栃木は相変わらずモテモテだ。  くそっ。栃木めっ!  俺は反射的に思う。  ん? まてよ?  そのモテモテの栃木は、俺の花嫁……。  ぼんやり立ちすくむ俺を栃木がみとめた。栃木は、俺に向かって微笑んだ。  俺と栃木は、バージンロードを歩み、祭壇の前に進み出る。牧師が聞く。 「あなたは、潜在意識を信じますか?」 「はい、信じます」 栃木が答えた。 「無意識の方が、普段意識している意識より正しいと、信じますか?」 「はい、信じます」 俺は、無意識に答えていた。 「あなた方は、意識の壁を乗り越えて、無意識の偉大な力により、今、ここに、結ばれました。アーメン」 「アーメン」 牧師が高らかに宣言し、俺たちは無意識に唱和した。 「よくわからないですけど……僕たち、結婚します」 「……します」 俺たちは、人々に宣言し、式は、とどこおりなく終わった。

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