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僕は、この国にしか生息しない竜の子どもだ。 この世界には沢山の竜がいて、僕みたいにその国その国にしかいない竜なんかもいる。 それらは国の竜……〝国竜(こくりゅう)〟と呼ばれ、人間の言葉も分かることから国民に大切にされてきた。 でもーー 『あれがこの国の竜だぞ!』 『殺せ殺せ!!』 この国が隣国との戦争に負けた時、隣国の兵士が一斉に僕らへ襲い掛かってきた。 まだ幼かった僕は、大きく広げてくれた両親の翼の下で丸くなってビクビク震えることしかできなくて…… やっと嵐が終わって静まり返った頃この国の兵士が助けに来てくれたけど、もう手遅れで……巣には多くの竜の死骸が転がっていた。 『ぼく、ぼく生きてるよっ!』 僕を守って死んでしまった両親の重い骸の下から一生懸命キュウキュウ鳴いても、兵士はまったく足を止めてくれない。 そんな中ーー 『待て!おまえら静かにしろっ!! 何か聞こえる……』 大人の足音じゃない…小さな靴の音。 それが僕のいるところまで歩いてきて、ピタリと止まった。 『ここ…ここだ! おい!急いでこの死骸をどけろ!!』 集まった兵士が一斉に母さんを持ち上げてくれて。 その下から、小さな男の子の手が僕を掬い上げてくれた。 (それから、ずぅっと一緒なんだよね) 救ってくれたのは、何とこの国の王様の子ども。 目を覚ますと綺麗な天井の部屋にいた。 『お前名前はっ!? 俺はアルヴァン!ヴァンって呼んでいいぞ!!』 『キュ……』 (名前…ないよぉ……) 名前なんて、もっと大きくなってから付けてもらうもの。 まだ小さい僕にそんなものは無くて。 『お前…もしかして名前ないのか? それなら俺が付けてやるよっ!』 (きみが?) 顔を上げると、うんうん悩んでる様子のその子。 『んんーそうだな…… それじゃあ、リフィル!!』 (リフィル?) 『俺の大好きな本に出てくる主人公の名前なんだっ! かっこいいんだぜ!? 強くて勇敢で、大切な人の為に戦うんだ!!』 目をキラキラさせながら一生懸命教えてくれるそれに、なんだか僕まで嬉しくなってきて。 (リフィル……ぼく、リフィルっ!) 『お、いいのか? なら今日からリフィーな!』 『キュー!キュ、キュ!!』 『ぅわっ、ちょ、やめろって!』 パタパタ飛んでぎゅぅっと顔にくっつくと、くすぐったそうに笑われた。 ーーそれから、今。 「アルヴァン様、そこはそうではありません。正しくはこうです」 「うげ、ここか……」 机に向かうヴァンと、それを教えるロルドさん。 ヴァンは今年で16歳。人間では成人する年になるのだそう。 だからお父さんである王様から少しずつお仕事をもらって、勉強と一緒に公務もしなきゃいけなくなった。 それに伴って家庭教師がお父さんの付き人であるロルドさんに変わって、今はロルドさんと毎日頑張ってる。 凄いよねヴァンは、ちゃんと手動かしててさ。 僕だったら遊びたいー!って暴れちゃうのに。 お父さんの為、この国の為、いつも真剣。 (でも、遊ぶ時間は減った……) 前はもっともっと遊べてたのに、今はおやつ食べてからの少しの時間だけ。 あーぁ、寂しいなぁー…… 「キュー……」 「ロルド、リフィーが呼んでる」 「うるさいですよ。さっさとこの問題解いてください」 「かー!この堅物執事め。ちょっとは融通聞かせてくれてもいいじゃねぇか」 「貴方の場合、一度聞いたらどんどん要求が増えますからね。私はそう甘くありませんよ」 「このっ、ーーぉあ!」 ぁ、〝それ〟。 ガタンと立ち上がった拍子にヴァンの手がカップに当たり、飲み物が書類へ溢れてしまった。 「あぁー………」 「…アルヴァン様……」 (〝それ〟、今だったかー……) 国竜にはそれぞれ特殊な能力がある。 精霊と仲が良かったり、直ぐに傷を癒せたり、色々。 その能力を人間と分かち合い国を豊かにして守ってる。 僕の種類の場合は、それが〝予知夢〟で。 (この前夢でこの場面見たんだよねぇ…まさかここだったとは。ごめんねヴァン) 大人になったらちゃんと正確に分かるようになるみたいなんだけど、まだまだ子どもの僕にはそんな力は無い。 まぁ…この力が危険だからって僕の種類は全滅させられたんだけど…… 「さぁアルヴァン様、どう落とし前をつけて頂きましょうか……」 「いやこれは不可抗力だ!な?リフィー見てただろ!?」 「黙らっしゃい!」 (あーこれは) これはきっと、昨日より勉強時間が長くなるやつだ。 バシッと頭を叩かれてるヴァンを眺めながら、ごめんねと思いつつ体を丸めた。

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