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「もうすぐ〝成人の儀〟ですね」 「キュッ?」 おやつの時間 クッキーを両手で持ってカリカリ食べてると、カップ片手にロルドさんが「早いものですね」と笑った。 「あんなにちんちくりんだったアルヴァン様が大人とは……心配でなりません」 「うっせぇなぁ、俺だってちゃんとできる!」 (せーじんのぎっ?) なにそれなにそれ。 「ん、リフィー? あぁ成人の儀が何かって? ほら説明してやれよロルド」 「ご自身ですればいいでしょう、まったく…… 成人の儀とは、人間が大人になる時に行う儀式の事ですよ」 「キュー?」 大人になる瞬間……16歳の誕生日の日に行われる儀式。 それを終えたら、人は大人になるのだそうだ。 「アルヴァン様の誕生日は星の月。今はまだ木の月ですので、後3ヶ月後に行われます」 「下の大広間でやるんだぜ!人も沢山見に来るんだ!」 1階にある大広間…ヴァンは王様の子どもだから、きっと本当に大勢の人が来るはず…… (っ、てことは!!) 夢の中で見た、あの景色。 そう言えば大広間に敷かれてる絨毯は、赤い色をしていた。 王様の息子が成人の儀を行うとなると、国の旗だって立てるはず。 それに、確か矢が刺さってるヴァンの格好はいつものではなく正装のようにしっかりしていたような…… (……間違いない) ーーヴァンは成人の儀の時、矢に撃たれるんだ。 きっと、きっとそうだ。 (どうしようっ!) 何とかしてヴァンを助けなくちゃ!! でも、一体どうすれば…… 頭上で交わされる会話を聞きながらクッキーをガジガジ噛んで、ギュンギュン頭を回転させて 出てきた、答えはーー 「キュー!!!!」 「…リフィー?」「リフィル様?」 公務をする為再び席へ着く2人より先に机へ辿り着き、書類の上にビタンッ!と張り付く。 (成人の儀、しちゃだめー!!) 「おいリフィー、退いてくれないと仕事できないんだけど」 「キュー!!」(だめー!!) 「リフィル様如何なさいましたか? 遊び相手なら私が」 「キュー!!」(だめー!!) 嫌々首を振って、必死に書類へ張り付いた。 「……おい、どうしたんだこれ? ロルド分かるか?」 「…いえ、私にもさっぱり。この短時間に一体何が……」 「キュ!キュキュ!!」 (お願い、気づいて) このまま成人の儀をしちゃったら、大変なことになるの。 ヴァンが死んじゃうの。 だから…だからお願い。 書類なんか片付けてる場合じゃない。 どうか、成人の儀を止めさせてーー 「あ、もしかして我々が成人の儀について話をしたからでしょうか」 「え?」 「この短時間での変化と言ったら、それくらいしか……」 (それ!それだよロルドさん!!) やっぱりこの人すごい!神様かなっ!? 「まさか……認めてくれないのか? 俺のこと」 (ーーぇ?) ハッと顔を上げると、悲しげな表情で僕を見てるヴァンがいた。 「お前も、やっぱ俺が成人なんか早いって……まだまだだって思ってる?」 「キュ、」 「こんな奴に国なんか任せられないって……思ってんのか?」 (ちが、違う、僕はそんなことーー) 「違うんなら、どいてくれよ…リフィー」 「……ッ、」 「…………あぁ、そうかよ。分かった」 ダンッ!!と勢いよく両手を机に着いて、椅子から立ち上がる。 「っ、アルヴァン様」 「ロルド……今は1人にさせろ」 (ぁ、) ふらりと、寂しげな背中が部屋から出て行った。 「……っ、リフィル様一体どうされたのですか? 貴方は私よりずっと長くアルヴァン様と共に居るのに、何故今この様な事を…… 貴方がしていることは、あの方にとって裏切りの様な行為ですよ。分かってらっしゃいますか?」 (分かってる……分かってるよそんなこと) 今まで毎日ずっと机に向かうヴァンを見てきたんだもん。 ヴァンがどれだけお父さんの為、かけられてる期待の為、国の為に必死になってるのか知ってる。 ーー僕が1番、知ってるんだ。 (でも、それとこれとは違う) 僕はヴァンを守りたい。 ずっとずぅっと、元気に笑ってて欲しいんだ。 だから、だから……… 「……ッ、」 困惑気味に見つめられるその目に語りかけるように、僕も懸命に見つめ返した。

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