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6.34歳の理衛と19才の翠龍
断る理由はないので、理衛は翠龍青年の申し出を丁重にお受けすることにした。
ここはそういう部屋で、自分自身もそういう目的を持って、兄者を丸め込もうとしていたわけなので。
再度ベッドの上に乗り上げるとギシッと音が鳴る。そういう目的のためのベッドのくせに軟弱だな、と理衛は片眉を上げながら目の前で顔を赤くして体操座りで丸まる年若い兄を眺めた。
眉上で切られた前髪がダサくてなんとも可愛げがあった。
ヤリサー所属のくせに初心な態度をとる翠龍青年に理衛はふむと顎髭をさりさりと撫でた。
「服は自分で脱ぎますか?それとも人に脱がされる方がお好きで?」
問えば案の定、翠龍は顔をより赤くして「自分で、」と慌てて服を脱ぎ始める。
それを薄く笑って眺めながら、理衛も黙ってベルトを外す。
衣擦れの音とベルトの金属がたてるカチャカチャという音だけが部屋に響いて、翠龍はとてつもなく緊張した。
自分から言い出したものの、これから弟とセックスをする。俺よりも一回り以上年上の、未来の弟だ。何を言っているのか分からんと思うが俺にもさっぱりわからん。
しかも弟はべらぼうに色男だった。
小さい頃から顔立ちがはっきりしていて整った顔の弟だったが、今や、いや未来的にはこんなにも。
丸みの落ちた頬には年齢が感じられてセクシーに見えるし、目元には小さく皺が寄る。手入れされた顎の髭は男らしさを醸していたし、何より立ち振る舞いがスマートだった。さっきは発狂していたが。
そう思うと余計に緊張してしまい、理衛の顔をチラッと見ることもできない。
「兄者、」
目を合わせられない内にするりと頬に理衛の大きな手が添えられて、翠龍はびくりと体を固くする。手の大きさも背の高さも声の深ささえも弟の方が優っている。自分とは段違いだった。
「緊張しますか?何も気にしなくていいんですよ、ただ…良くなってくれれば」
「ヒュッ」
あ、ダメだ。と翠龍は思った。
大学に入学してから多種多様な扉を開いてきたと思っていたが、また新たな性癖の扉が開きそうだ。
ーーアナルは好きだが、男まで好きになりたくない。(しかも自動的に近親相姦がオートコンプされてしまう)
しかし翠龍の口から出たのは「よろしくお願いします…」というか細い声の台詞だった。
■
繋ぎ合わせていた唇を離せば、熱くて濡れた吐息が睫毛にかかる。
頭ぱっぱらぱーの大学生達に開発されてしまった兄の体を抱く。淫乱な兄者を妄想して抜いたことは数多だが、現実になってしまうとそれは複雑なことだった。
スケベだなと思う気持ちもあるが、汚れてしまった兄者という現実が想像以上につらい。2・8くらいでツライ。
だが若く瑞々しい体はやっぱり最高だった。
今の兄者だって最高だが、その年頃じゃないと味わえない良さがあるのだ。
あの頃、高校生なんて多感な時分に身を焦がすほどに欲した兄の体を抱いていると思えばたまらなく興奮できる。
胸に手を滑らせて、小ぶりな突起に指をわざと引っ掛けながら、しかしこの兄者、ほんとに俺の兄者の過去の姿なんだろうか、と理衛は思う。
ヤリサーなんぞに入っていれば、兄者がそれをどれだけ隠そうとしたって普段の様子を具に見ていた俺であれば何か不審な動きや、性癖の変化も読み取れただろうし、そもそも、兄者と結ばれるまでに、あそこまで嫌悪を抱かれなかったはず。
更に下へと手を滑らせて、性器を弄んでから後方の窪みへ指先をゆっくりと侵入させる。理衛は浮かんだ疑問を上手に加工して滑らかに口から出した。
「ところで兄者…はどこの大学に通ってるんでしたっけ」
「ンッ…はぁ…政法、だが」
理衛の手の動きに翻弄されながら翠龍が不思議そうに答える。理衛は中を柔らかく掻き混ぜながら続きを問う。
「セイホウ……市ヶ谷の?」
「んんっ!んっ!アッ!ぁっそ、そうだ…」
トントンとゆるく腹側を刺激されて、きもちいと喘ぎながら兄者はそう答えた。
理衛は目をスッと細くして組み敷いた翠龍を見る。政法大。俺の知る限りそんな大学はない。無論、兄者が行った大学とも一致しない。つまり。
「お前は……『俺の』兄者じゃない」
「ヒッ…ゃ、あぁん!」
ズンっと強く二本の指を突き立てて、兄じゃない翠龍の体を理衛は戦慄かせた。
この大学生の翠龍は確かに翠龍その人に違いないと理衛は思う。
でも俺の兄者の"過去"じゃない。
別の翠龍、別の兄者だ。
だったらいい。いいだろうとも。こんな美味しいこと滅多にあるもんじゃない。
「楽しもうじゃないですか、兄者」
「はぇ…」
自分の兄と同一人物ではないと確信して、理衛は本当に、心底ほっとした。
己の兄は汚されたりなどしていなかった。解釈違いではなく、そもそも人違いだったのだ。
自分の影の下で顔を赤くして鼻水を垂らすぐずぐずの青年の顔を見る。
ここにいるのはヤリサーでど淫乱に育ってしまったスイロン君、かっこ19歳かっことじのどスケベボーイなのだ。つまりこれは妄想だ。フィクション。
俺の現実は兄者のみなので。
そして栄沢理衛にとって、妄想の世界で愉しむのは得意中の得意だった。
■
「スイロン君」と名前プラス君付けなんて小学校の教師くらいにしか呼ばれない名詞で呼ばれて、翠龍はぼうっとする頭で「はい」と返事をした。
尻の中にある質量がすごくて意識がそこにばかり持っていかれそうになる。背後にいる理衛の顔は翠龍には見えない。
「今は兄と呼ぶには貴方は年下ですし、いいですよね? 俺のこともさん付けでどうぞ」
「リエイ…さん」
「クゥ〜ッ」
これこれ、こういうのだよ。理衛は不敵に笑った。
絶対に兄者には『できない、やれない、させられない』ことを、目一杯愉しませてもらおうと理衛は舌舐めずりして、その下品な表情も隠すことなく若い肢体に手を滑らせた。墨の入っていない背は白くて眩しい。血の色が浮いて桃色に染まるのが早く見たい。
理衛はスイロン君がこれまで経験したことがないであろう抱き方で抱いた。
具体的には恋人にするセックス。
猿のようにヤるだけではない、丁寧で上質なものだ。
案の定、そんなセックスを知らぬスイロン君は体を満遍なく愛撫された段階で途端に根を上げて、あへあへとだらしなく心地よさに頭から爪先まで浸されてる間に中へと理衛の逸物を迎え入れさせられて、ガンガンに鳴かされて、泣かされてしまった。
「こんなセックスしたら、もう大抵のセックスじゃ物足りなくなってしまうな?どうする?」
あえて意地悪く言うのは、普段できないプレイの一環だった。
顔をぐしゃぐしゃにしながら「あ…」とか「う」とか言うスイロン君の耳に舌を這わせてゆるりと奥をつくけば何度目かの涙をボロリと零す。
「ぅ、やだぁ…」
「やだじゃなくて。どうする?先輩の粗チン、ハメてもらうか?」
「や、だぁ…!」
頭をゆるゆると振って、腰を忙しなく振るスイロンに理衛の股間は漲った。いやもうとんでもなく血が集まる。俺の血液はいますべて股間に吸い上げられている。
「俺のちんぽハメてたいか?」
笑いながら言えば、スイロンの中がきゅううと締まった。
「あぅ、あ、あぅ、うぅぅ」グラインドを大きくした理衛に中をくまなく擦られて、スイロン君は息も絶え絶えだった。
「サークル、やめるよな?」
ドチュ、と湿った音と肉をぶつける音が鳴る。煙草が吸いたい、と理衛は思う。吸いながらもう少しだけこうやって犯してたい。うわなんだそれ最高か。早くアレクに言いたい自慢したい。
リエイさんの声にスイロン君はコクコクと頷き、辞めます、と声にならない声で叫んだ。
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