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第5話 管理人さん、神か?(1):同居人R
いま、管理人さんの運転してる車の、助手席に乗ってる。
仕事帰りで、家に向かってるところだ。
仕事とは、管理人さんの行ってる会社・現場であって、僕はその仕事場に、務めるようになって2か月が過ぎようとしている。
僕は、管理人さんの案内があって、一緒の仕事をしてみるか?と誘われた。
* * *
常日頃から、管理人さんに言われているのが、何でもいいからやってみろ、ということ。
正直、働く、ということに、抵抗がちょっと、…少し、……けっこう、……、すっごく、すっごくあるんだ。
まず、他の人としゃべれない。相手の目を見るのが嫌で。
正社員みたいな働き方をしたことが無い。
近所の道がよくわからない。
お金を持っていないから、準備が整わない。
それから…、それと…、他にも…。
それらのことをひっくるめて、一緒に行動を共にして、働かせてくれている。
面接のときも横にいてくれたし、靴も作業用軍手も買ってくれたし、そして会社までの道も車で通勤できてるし。
「分からないことがあったら、なんでも」
とは言われてはいるんだけど、その分からないことを、どういう風に言葉にすればいいのかが思いつかない。だからしゃべれない。
しゃべれないというのは、そういうことだと気が付いたのは、少し前のこと。だから、言いたいことを、思いついたところから話してもいいということを、管理人さんが言ってくれてる。
たどたどしくても、どもって上手く言葉にならなくても、嚙んでも、
「ふむ、…ふむ」
って、相槌打ちながら、最後まで聞いてくれてる。時間がかかっても。他のことを止めてでも。
これが他の人だと、いつもなんだけど、途中で遮ってしゃべられるから、僕の言いたいことを全部言った試しがない。
これが、管理人さんが、他と違うところなんだ。
他の人の話を聞くのは、たぶん、普通だと思う。しゃべれないだけで。あ、いつもじゃないよ。たまーに、スラスラ言葉が出てきて話せるときはあるよ。たまにね。
だから、話を全部聞いてくれる管理人さんは、信頼してる。
それプラス、面倒見がいいところ、かな。
仕事中もたまに声をかけてきたりして、世話してくれてるというか、安心して仕事できているというか。
なんで、ここまで、僕に尽くしてくれてるんだろう…って、不安になることもある。
さすがにこのことは、話していない。
だけど。
今まで、いろいろ言われてきたことがあって。
「オレから見たら、みんな子供みたいな歳の差だからさ。」
「オレの方が経験あるのは当然だろ?」
「若いうちはまだ経験が少ないから、何でもいいからやってみて、経験値を上げていけばいいんだ。」
「そのうち、出来ること、やりたいことが、見つかるようになってくるだろ。」
僕が出来ることは、まだまだ少ない。だけどその中からでも、出来ることを出していく。管理人さんはそれのお手伝いをするだけだ、とも言われた。
* * *
「着いたぞ。」
僕らの乗った車が駐車場に止まった。
「おかずはまだあったよな。お腹すいたから、ご飯の用意しよう。」
仕事のあとの運転が終わっても、管理人さんの口調はいつもと変わらなかった。
疲れを知らない、というのかな。前に、ちょっと怒ってるっぽいことはあったけど、
体調を崩したことって、あまりない。
そういえば、このシェアハウスに来て8年くらい経ってるけど、風邪ひいてるところも見たことが無い。寝るときは全裸で寝てることもしょっちゅうだけど。
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