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第7話 管理人さん、神か?(2):同居人M

日曜日の朝。 台所でカチャカチャ音がしている…気がする。 オレは昨日のパソコン作業で、ちょっと遅くまでかかってたもので、もう少し寝ておきたい。 ……、あれ。 コーヒーの香りがしてきた。 なんでこんな香りがしてくるんだろう。 眼だけ少し開けると、管理人さんがゴソゴソ動いている。 次に気が付いたときは、なんだか、すごい、目がぱっちりと起きれてしまった。 「ああ、おはよう。起こしちゃったかな。」 すっかり寛いでる管理人さんを眺めてみた。コーヒー豆から淹れてたんですか? 「まあ、ね。」 珍しい。ここに来てからは、インスタントしか見てなかったのに。 パッと見、ドリップ式で、マグカップに直接乗せて淹れるタイプの、簡単な形だ。 飲むものとは別のマグカップに乗っている。豆を挽いた粉が、ちょっと泡を残していた。 そのドリップ、管理人さんのはちょっと違う機器を使っている。これって、鉄なのかな?銀色に光って金属製。紙を使ってない?粉を入れるところも金属製で、よく見るような紙を使っていない。 「ドリップなんだけど、紙フィルターじゃなくステンレス製のフィルターなんだ。街で売ってるものは銅で出来てるちょっと黄色っぽい金属のモノもあるんだけどね。これだとコーヒー豆の脂分もそのまま出てくるので、原理としてはエスプレッソと同じ要領なんだよね。紙のフィルターだとその脂分が紙に吸収されちゃうから。その分苦みもストレートに出てくるんだけどねえ。」 あ、説明が長くなりそうだ。なんか切り返しておかなきゃ。えっと、ずいぶん詳しい説明をしてくるのって、凝ってるんだなあ。 「あ、昔、喫茶店やってたからね。マスターってヤツになって、お客さんにコーヒー出してたんだよ。」 え?そうなの?あれ、トラックドライバーやってたんじゃ? 「それは前の仕事ね。今はもう福祉の仕事だから、こっちに専念してるけど。」 って。またいろんな仕事経験してるんだな。オレも人のこと言えないけど。 「これこれ。これが自分の経歴書。おー、ドライバーは5年やってたのか。その前は工事現場の監督やってたり、設備設計もしてたよ。」 オレの職探しで履歴書を作るタイミングがあって、文房具店に行くのもいいけど、どっかにフォーマット形式ないか聞いてみたら、管理人さんの経歴書があるので、それを改造して使おうということになった。管理人さんのパソコンをごそごそ探してもらって、画面に出したら、 職務経歴書って、これ何? あ、ああ、今までの仕事でやってきたことのまとめ?え、こんなこともやってたの? 「自分もなんでもやってたから、それを全部書いたら、1ページまるまる埋まっちゃった。」 管理人さんって、監督に6年、設計が8年…、こんなに、しっかりやってるんだ…。 ま、オレはこんなに書くことないし、履歴書の2ページだけでいいんだけど。でも資格の欄はこんなにいらないや。 *  *  * オレはアニメも好きなんで、いろんなジャンルを見てるんだけど、同居人さんと、意外と話が合うのが、ちょっとびっくり。 「フライング・フィッシュをネタにしてるのって、かなりマニアックだね~。知ってる人そんなにいないだろ。」 「え、この声優さんって、ここにも出てるんだ。」 「この話のアニメ版は、まだ見たことなかった。変に変わってないだろうねえ?」 管理人さんって、普段はどんなアニメを見てるんだろう? 「テレビでは見ることは少なかったけど、なんでも見るよ。エッチなのも含めて。」 選り好みをしないしない管理人さんらしい回答だった。 *  *  * 実はオレ、学生の頃にYouTubeでネタを投稿していたことがあって、最近またアップしてるものがあるんだ。小説と動画。 小説は週に一度、話を仕上げて上げるんだけど、ストーリーが壮大すぎて、作る順番や登場人物があいまいなところがあって、話がまとまらないことがあるんだけど、 最近は、そういう時は管理人さんとドライブ行くようになった。 「その子って、一人っ子だよね?あ、隠れた兄弟がいる設定?」 「その親世代だと、バブルを知ってる世代だから、金遣いが荒いのは普通だった人も多いよ。」 「サイドストーリー作るんだったら、時系列作っておくといいね。辻褄合っていると、読者も気が付いてくれるから。」 話を投げかけていくと、いろんなアドバイスをくれるので。一人でいるよりも、話がすごい広がっていくんで、3話分くらいの話がまとまってしまう。 動画も、音楽も絵も自分で作るんだけど、いかんせん、オレには音楽の知識が無いので、なんとなくいい感じで音符を並べていくしかないのだが、ここも管理人さんが。 音楽用のキーボードを出してると、ポロロンと和音を弾いてくる。ピアノ、弾けるんだ。 「ドミソの和音、ベースがドの、この音を1としたときに、ドミソって1・3・5になるだろ?これが基本形。」 「あのアニメのオープニングの曲は、伴奏はこう弾いてるから、Eフラットのメジャーがキーの音。この音が1の音。そこから、3がこれで5がこれ。」 「カッコよく聞かせるんだったら、1・3・5に対して、2と6の音を入れる。これでちょっとよく聞こえるようになるから。」 と、すすすいすいと簡単に弾いてくれてる。しかも、専門用語をあんまり入れないで説明してくれるので、感覚で指を動かす方に重点を置いてくれてる。 こんな、なんでも出来てなんでもやってくれる人が、なんでか、このシェアハウスの管理人をやってるなんて。どうして、こんなところにいるんだろう。 「人のいるところに、人はなし。人のいないところに、人ありき。…これは三国志の諸葛孔明の言葉だっけ?」

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